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原油価格とロシアの経済・財政の悪化:中長期の成長は中国次第

2023/04/19

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原油輸出の大幅値引きで財政の大幅赤字傾向が続く

ロシア経済への逆風が続いている。ロシアの軍事活動が経済面での制約から直ぐに行き詰まることはないとしても、ロシア経済は中期的に停滞を脱することが難しい情勢とみられる。

4月上旬にロシアの通貨ルーブルは、対ドル及び対ユーロで2022年4月以来、1年ぶりの安値にまで急落した。ロシア中央銀行は、ルーブルが大幅に下落したのは、国内の輸出業者による外貨収入の売却が減少したのが原因、との見解を示している。

実際、2023年1~3月には、ロシア産原油の輸出価格に上限を設定した先進国の制裁措置の影響などで、ロシアの石油・ガス収入は前年同期比45%減とほぼ半減している。ロシア政府の財政収入の約4割を占める石油・ガスの輸出収入が大幅に減少したことで、2023年1~3月の財政収支が2兆4,000億ルーブル(約3兆9,000億円、約298億ドル)の赤字となった。財政悪化の見通しも、ルーブル安の背景にあり、さらにルーブル安が物価高を通じて、国民の生活を圧迫する流れとなっている。

財政赤字の穴埋めのため、ロシア政府は国内で国債を発行するとともに、社会保障基金を取り崩し、人民元を売却している。基金は1,470億ドル程度残されているとされるが、ウクライナ侵攻後に280億ドル減少した。

1~3月の財政赤字額は、2023年通年の政府予想の赤字額の8割超にまで達している。財政赤字の拡大に危機感を強めるロシア政府は、税収の確保に奔走している。石油・ガスの輸出収入が大幅に減少した要因の一つは、ロシア産原油の輸出価格に上限を設定した先進国の制裁措置をきっかけに、ロシア産原油の主な輸出先であるインドや中国などに足元を見られ、大幅に値引きして輸出することを強いられていることである。

ロシア産原油価格の値引き分に上限を設定

そこでロシア政府は、石油会社への課税の算定に使うロシア産ウラル原油の価格について、「値引き幅」に上限を設けた。値引き幅の上限を4月は34ドルに設定し、5月には31ドル、7月には25ドルと徐々に縮小していく。

上限価格と実際の輸出価格の乖離分は、税金支払いの際に石油会社が負担することになる。乖離が拡大すれば石油会社の負担がさらに高まっていく仕組みであることから、それは持続的ではないだろう。結局、この仕組みは、ロシア産ウラル原油の輸出価格の値引き圧力から、ロシア経済、財政を守ることにはならない。

ところで、石油輸出国機構(OPEC)にロシアなど非加盟国を加えたOPECプラスが4月3日に追加減産を決定したことで、原油価格が上昇に転じた。ブレントやWTI原油先物の価格は、1バレル80ドル台に乗せている。

1バレル60ドル台乗せは一時的か

この原油価格の上昇は、ロシア産ウラル原油の値引き圧力を一時的には緩和しているとみられ、ロイター通信によれば、その輸出価格は昨年12月に先進国が設定した1バレル60ドルを超えたとみられる。原油価格の上昇によってロシア産ウラル原油に割安感が生じ、それが需要増加と価格上昇をもたらしている可能性が考えられる。原油価格上昇は、一時的にロシアの貿易・財政環境として経済に追い風となる。

しかし、ロシア産ウラル原油価格が上限に達したことで、海外からはロシア産ウラル原油価格を買い控える動きが広がることが見込まれる。そのため、ロシア産ウラル原油の価格にはその分下落圧力が高まり、結局、1バレル60ドル超えは一時的現象となるのではないか。

さらに、米国を中心に景気減速リスクが高まる中、原油需要の鈍化観測から、この先原油価格には下落圧力がかかりやすいと予想される。その場合、原油価格全体が下がるなか、ウラル産原油とブレントやWTI原油との価格は再び開いていくだろう。

ばらつきが目立つロシアの成長率見通し

ロシアの成長率予測については、予測機関の間でばらつきが目立つ。国際通貨基金(IMF)は、2023年は+0.7%、2024年は+1.3%と予想する一方、経済協力開発機構(OECD)は、2023年は-2.5%、2024年は-0.5%と、2024年までマイナス成長が続く見通しとなっている。

見通しに大きなばらつきが生じている背景には、ウクライナ侵攻後にロシア政府が経済指標の発表を一部停止していることや、統計の信頼性が疑われていることがあるだろう。そのため、各機関ともに独自のアプローチで成長率の予測を行うようになり、これが予測値のばらつきの拡大につながっているとみられる。また、ロシアのGDP統計にどの程度基づいて成長率の予測値を作成するかについても、各機関のスタンスが分かれていることも背景にあるだろう。

しかし、短期的なロシア経済の見通しにはばらつきがあるとはいえ、中長期的には悲観的な見方が多いと考えられる。IMFは2023年のロシア経済成長率見通しを最新値で上方修正したが、ウクライナ戦争の影響で2027年までのGDPは、戦争以前の見通しよりも7ポイント低下するとみている。「人的資本の喪失、国際金融市場からの孤立、先端技術の入手困難などの要因がロシア経済を損なう見通しだ」とその背景を説明している。

世界銀行のデイビッド・マルパス 総裁は、「ロシアのウクライナ侵攻によってロシア国民は大損害を受けている。GDPデータはその実態を十分明らかにしていない」と指摘する。さらに、多くの若者がロシアを脱出していることは、ロシア国民の生活が厳しさを増していることの反映、との見方を示している。

中国とロシアの経済的な接近は世界経済の分断化を加速させる

西側企業がロシアでのビジネスから相次ぎ撤退したことは、ロシア経済の中長期的な成長の芽を摘んでしまったのではないか。例えばロシア中銀は、航空セクターでリスクが高まっているとしている。新型の機体や部品の不足により、保守で問題が生じかねないという。またIT業界や金融企業も、ソフトウエアやデータベース管理システム、分析ツールなど、西側のテクノロジーが利用できなくなったことで苦戦を強いられている。

動員の拡大や動員回避のためにロシアから逃れる労働者の増加も、ロシア企業に深刻な人材不足を生み、ロシア経済の中長期的な成長を損ねる。ロシア中銀によると、ウクライナ侵攻開始後の頭脳流出、昨年秋の30万人規模の部分動員令により、企業の約半数は人手不足に陥っている。錠前師、溶接工、機械作業員の人手不足が特に深刻だという。

短期的にロシア経済や財政が何とか持ちこたえることは可能であるとしても、ウクライナ戦争が続く限り、中長期的な安定成長は望めなくなってきている。ロシアがその経済を中国に明け渡すかのように、中国経済・企業への依存度を高めていかない限り、中長期的なロシア経済の展望はかなり厳しい。

他方で、ロシアと中国が経済面でもさらに接近していくことは、ロシア経済にとっては追い風になる一方、それは世界経済の分断化を加速させるものとなり、世界経済全体にとっては大きな懸念材料である。

(参考資料)
"Is Russia's Economy Growing or Shrinking? It Depends on the Forecaster(ロシア経済は拡大?縮小? 見方はまちまち)", Wall Street Journal, April 13, 2023
"Russia's Economy Is Starting to Come Undone(崩壊し始めたロシア経済、来年には資金枯渇か)" , Wall Street Journal, March 29, 2023
「ロシア産原油、G7など設定の価格上限超える OPEC減産受け」、2023年4月6日、ロイター通信
「ロシア、財政赤字深刻に 1~3月の石油ガス収入45%減、国内原油値引きに上限」、2023年4月11日、日本経済新聞

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