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経済効果が期待される特定技能制度の見直し:外国人労働者受け入れ拡大を日本経済の潜在力向上に

2023/04/25

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人手不足対策としての特定技能制度

厚生労働省が事業主から集計したところによると、2022年10月末時点で、外国人労働者数は182万2,725人となった。同時期の雇用者数全体は6,081万人(労働力調査)であることから、外国人労働者は国内雇用者全体の3%に達している。

低迷している日本経済の潜在力を高めるためには、外国人労働者をより積極的に受け入れていくことが、選択肢の一つとなるだろう。それについては、日本人の雇用を奪うとの慎重な意見もあるが、出生率が低下傾向にある中、外国人労働者が増加することは、潜在成長率を押し上げ、企業の中長期の成長期待を高める。それが、国内での設備投資の拡大につながれば、労働生産性上昇率と実質賃金上昇率が高まることで、日本の労働者にも大きな恩恵が及ぶはずだ。

2019年に創設された外国人の在留資格「特定技能」制度は、国内での人手不足対策として導入された。特定技能には、就労が最長5年の「1号」と、より高度な技能を持つ外国人労働者が対象で、資格更新回数に上限がなく長期就労が可能であり、また家族を呼び寄せることができる「2号」の2種類がある。

長期就労の外国人労働者を増やすことが経済の潜在力を高める

現在、特定技能は約14.6万人と、外国人労働者全体の8.0%を占める。ただし、そのうち2号は建設業でのわずか10人に留まっており、ほとんどは、最長5年までしか就労が認められない1号である。1号は、人手不足が深刻な建設、介護、農業、飲食品製造など12の産業分野でのみ認められている。特定技能制度は、人手不足緩和のために一時的に外国人を活用する制度として現在は機能しているのである。

特定技能制度のもと、人手不足の分野で外国人労働者が期限付きで活用されることは、マクロ経済の視点で考えれば、成長の天井を押し上げ、景気回復期の景気の振幅を大きくすることにつながる。しかしそれは、成長率のトレンド、つまり潜在成長率には影響を与えないだろう。外国人労働者が生み出す追加の供給力も、また需要もともに一時的であるからだ。

外国人労働者の活用を日本経済の潜在力向上、そして労働生産性上昇率と実質賃金上昇率の上昇を通じて日本人の生活改善につなげるには、家族の呼び寄せができる長期就労の外国人労働者を増やすことが有効となるだろう。それが、持続的な供給と需要の拡大をもたらし、国内での設備投資を促すからだ。

特定技能2号の大幅な対象拡大を検討

実際、そうした方向に制度改正が図られる方向だ。出入国在留管理庁は4月24日に、自民党の外国人労働者等特別委員会で、特定技能2号の大幅な対象拡大を提案した。これが実現すれば、人手不足が深刻な12分野で外国人の無期限就労が可能となる。

今回見直しが検討されたのは、2019年の制度創設直後から1号で働く外国人労働者が、2024年5月に在留期限を迎えるためだ。そうなれば、特定業種での労働力不足が深刻化してしまう。

また政府は、4月23日に統一地方選、衆参補選が終わったタイミングを見計らって、特定技能の見直し案を示した可能性も考えられる。外国人労働者の受け入れ拡大、在留期間の長期化については、日本人の雇用に与える悪影響などの観点から、慎重な意見も有権者の間に少なくないからだ。

特定技能2号対象拡大には、法改正は必要ない一方、閣議決定による法務省令の改正が必要であり、政府は6月の閣議決定を目指している。

外国人労働者の受け入れ拡大を成長戦略に

多くの外国人労働者に長期就労を認め、また家族の呼び寄せを認めることは、社会的な問題を生じさせるとしても、経済的にはプラスの側面が大きいのではないか。また、長期化する名目賃金上昇率の低迷と昨年来の急速な円安によって、海外から見た日本での賃金水準の魅力は大きく低下してしまった。その中で、良い人材を海外から招き入れるためには、長期就労、家族の呼び寄せを認めることがそれを後押しするのではないか。

他方、多くの問題を抱える外国人技能実習制度については、4月10日に政府の有識者会議が、廃止を打ち出した。技能実習は2022年10月時点で 343,254 人と、外国人労働者の18.8%を占めている。外国人技能実習制度は人権侵害の温床とも批判されてきた。一部では、外国人実習生に対する暴行や賃金未払いといった問題が指摘されている。また、来日を斡旋する悪質な業者に、実習生が高額の借金を背負わされ、それに耐えかねて失踪するケースも相次いだ。

技能実習生を特定技能1号に円滑に移行させ、さらに1号から2号へという流れを作っていくことで、外国人労働者にとっての日本での就労環境の信頼性回復を高め、それを外国人労働者のさらなる受け入れにつなげる。さらにそれを日本経済の潜在力向上につなげて行くことが重要だろう。そうした一連の取り組みを、政府の成長戦略の一つと位置付けるべきだ。

(参考資料)
「特定技能、どう変わる? 熟練外国人つなぎ留めへ」、2023年4月25日、日本経済新聞電子版
「外国人「特定技能2号」の分野拡大 家族帯同・永住に道」、2023年4月25日、日本経済新聞電子版
「(時時刻刻)外国人頼み、切実 子を育てながら過疎地支える 特定技能2号」、2023年4月25日、朝日新聞
「技能実習制の廃止 人権守る労働環境整えよ」、2023年4月25日、産経新聞

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