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植田日銀総裁の「金融緩和の継続が適当」≠「金融緩和を見直さない」

2023/04/26

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植田総裁は早期政策修正観測を抑え込む情報発信

植田日本銀行総裁の国会などでの発言は、「2%の物価目標の達成はまだ見通せず、日本銀行が早期に金融引き締めを行うことはない」として、金融市場の早期政策修正観測を抑え込むことを意図した情報発信に、重点が置かれているように見える。

25日の衆院財政金融委員会での答弁でも、原油高、円安などのコストプッシュ要因が薄れていく中、消費者物価上昇率は「今年度後半には2%前後、あるいは2%を下回るところに下がっていく」と説明した。消費者物価(除く生鮮食品)上昇率は3月に前年比+3.1%と物価目標の2%の水準を上回っているが、これはコストプッシュによる一時的なものであり、2%の物価上昇率が持続的に達成される状態を目指す2%の物価目標はまだ達成されていない、というのが日本銀行の主張である。黒田前総裁の説明と同じである。

さらに「ここで正常化をしてしまってインフレ率が下の方に行ってしまうリスクの方を重くみて、金融緩和のスタンスを継続している」とも発言している。「物価上昇率が一時的に物価目標の2%を超えたからと言って拙速に金融政策を正常化すれば、その政策効果の影響が遅れて経済、物価に表れ、結局、2%の物価目標が達成できなくなってしまう」ことを警戒している、との説明である。

金融緩和の枠組みを見直しても金融緩和状態は維持する

そのうえで「現在の金融緩和の継続が適当」との常套句を、植田総裁は繰り返したのである。しかし、「金融緩和の継続が適当」との判断は、「金融緩和を見直さない」という姿勢と同じではない。「金融緩和を見直さない」というのは、「金融引き締めを実施しない」という意味と理解すべきだ。

金融政策を引き締め状態にまで修正するのは、2%の物価目標の達成が見通されるようになり、さらに物価上昇率が持続的に2%を上回る可能性が生じる場合だろう。植田総裁の任期中には、そうした経済環境が実現することは想定されない。

他方、金融緩和状態は続けながらも、副作用に配慮して政策を見直していく、「金融緩和の枠組み見直し」を植田総裁の任期中に進めていくものと考える。それが植田総裁の最大のミッションとなるだろう。

例えば、金融機関の収益への悪影響などに配慮して、どこかのタイミングで日本銀行はマイナス金利を解除することが予想されるが、当初の金利引き上げは現状-0.1%から0.0%までに留まるのではないかと思われる。マイナス金利は解除されても、短期金利は極めて低い水準に据え置かれ、金融緩和は維持されるのである。

「物価目標の柔軟化」→「金融緩和の枠組み見直し」の順番に

2%の物価目標が達成されない現状のもとであっても、金融緩和状態は維持しつつ、副作用の軽減を図り政策の持続性を高めることを狙う、このような「金融緩和の枠組み見直し」を実施することは可能であるようにも考えられる。

しかし実際には、2%の物価目標を中長期の目標などに柔軟化したうえで、「金融緩和の枠組み見直し」を実施する、という段取りがとられることが見込まれる。「相当に意欲的な2%の物価目標をできるだけ早期に達成するためであれば正当化される現在の異例の金融緩和の枠組みも、目標を柔軟にすれば、その副作用の大きさ故に正当化されなくなる」と、植田総裁は考えるのではないか。

この点から、マイナス金利解除といった「金融緩和の枠組み見直し」は、2%の物価目標を中長期の目標などに柔軟化することが起点になると考えられる。しかしその時期は、自民党保守派の反対など政治的な圧力によって後ずれしている。多くの人がなお懐疑的である「今年度後半に物価上昇率が2%を下回る」という日本銀行の見通しが現実のものとなるまでは、日本銀行が2%の物価目標を柔軟化し、「金融緩和の枠組み見直し」に着手すること難しいだろう。そうした措置は「拙速」であるとして、多くの批判を浴びる可能性があるためだ。

物価上昇率の低下を確認し、今年10月の展望レポートで先行きの物価上昇率見通しを引き下げたうえで、2%の物価目標を柔軟化することが可能性の一つとして考えられる。ただし、その時期になると内外経済は厳しさを増し、米国で金融緩和観測が高まっている可能性があり、その場合、2%の物価目標の柔軟化に続く「金融緩和の枠組み見直し」に直ぐに着手することは難しくなる。マイナス金利解除といった「金融緩和の枠組み見直し」は、2024年後半以降にまでずれ込むと見ておきたい。

YCCの見直しは先行して行われるも今年後半か

25日の衆院財政金融委員会での答弁で植田総裁は、イールドカーブの形状がスムーズになってきた点を指摘したうえで、「現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)による金融緩和を継続していくことが適切」とした。この点を踏まえると、4月27・28日の金融政策決定会合では、YCCの修正を含めて、すべての政策の修正は見送られる可能性が高まっていると見ておきたい。

ただし、YCCについて植田総裁は、以前から含みのある発言を繰り返してい る点には注意が必要だ。最近では、YCCの見直しについては、「中途半端な情報発信をすると市場に大きなかく乱が発生する」、もし金融調節方針を修正する場合でも「ギリギリまでなかなか発表できない」との発言をしている。

日本銀行にとってYCCの問題は、市場のイールドカーブの形状を歪めることよりも、長期金利が上昇した際に、日本銀行が大量の国債買い入れを強いられることだろう。

この点を踏まえると、「金融緩和の枠組み見直し」とは別に、柔軟化措置との位置づけで、YCCの変動幅再拡大や変動幅撤廃などを前倒しで実施する可能性を見ておきたい。今年6月の決定会合は、それが実施される最短のタイミングではあるが、実際には年後半にずれ込む可能性が高まっているように見受けられる。

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