ファースト・リパブリック・バンクは予想以上の収益悪化と預金の大量流出

4月25日の米国市場では、3月のシリコンバレーバンク（SVB）の破綻などで表面化した米国の地銀の経営問題が、再び強く意識された。3月以降低迷を続けていた地銀株はこの日大きく下落している。KBW地銀株指数は一時4.3％下落と過去1か月で最も大きく下げ、2020年11月以来の安値水準で引けた。

特に注目されたのは、前日に発表されたファースト・リパブリック・バンク（FRC）の1－3月期決算で、予想以上の収益悪化が確認されたことだ。純利益は前年同期比ー32.9％となった。経営不安による急激な預金流出による利鞘の悪化が背景とみられる。

他方、1－3月期の預金は前期比ー40.8％と大幅に減少した。大手銀行による300億ドルの預金注入という救済策の影響を除けば、預金は前期比ー57.8％とさらに大幅な減少となっていた計算だ。同行の株価は、25日の引け値で前日比ー49.4％と一日でほぼ半減した。株価は、銀行不安が生じる前の3月上旬の水準から、ほぼ10分の1となっている。

FRCは最大1,000億ドルの資産の大量売却へ

自己資本比率の改善、流動性の確保を図るため、FRCは500億～1,000億ドル（約6兆7,000億～13兆4,000億円）相当の資産売却を模索していると、ブルームバーグ社が報じている。1－3月期の平均でFRCは1,682.7億ドルの融資と335.5億ドルの投資証券を保有している。そのうち、500億～1,000億ドルの資産売却となれば、かなり大規模なリストラとなる。FRCは、米連邦預金保険公社（FDIC）の管理下に置かれることを避けるために、バランスシートを強化したうえで、増資を行うことを目指しているとの報道もある。

ただし、低金利環境下でFRCが提供した住宅ローン債権を売却しようとすれば、金利上昇による住宅市場の悪化の影響から、売却損が生じる可能性もある。報道によれば、含み損がある債券や住宅ローン債権などを、市場価格を上回る価格で大手銀行などに購入してもらい、その代わりに同行のワラント（新株予約権）や優先株を付与して、将来の利益獲得の機会を提供する案が検討されているという。つまりは、FRCの新たな救済策である。

資産リストラを進める

FRCは、資産の売却に加えて、資産の中身も大きく見直す方向だ。従来は、元本返済を猶予し当面は金利の支払いだけという条件（インタレストオンリー）のジャンボモーゲージ（大型の不動産ローン）を顧客に提供してきた。しかし、それは流動性が低い債権であった。FRCは、今後は、流通市場で売却可能なローン債権に軸足を移す方針だという。

預金の大量流出の経験を踏まえ、資産の流動性を高める取り組みと考えられる。その結果、従来のビジネスモデルも大きく見直されることになる。

資産リストラが経済、不動産市場に悪影響か

このようなローン債権の売却やリストラは、FRCの経営改善にはつながることが期待できる。しかし多くの地銀が同様な取り組みを行えば、実体経済に悪影響を与えることになるだろう。特に不動産業界には大きな打撃となるだろう。日本経済新聞によると、米国の商業用不動産向け融資で地銀は３割程度のシェアを持つという。経済の悪化、不動産価格の下落は、地銀の貸出債権の劣化を通じて、銀行の収益を損ね、銀行経営のさらなる逆風となっていくことが予想される。

最新の4月12日で終わる1週間では、米国の銀行の預金は減少する一方、貸し出しの増加率は前年比で＋1.8％と、2014年の初め以来の低水準となった（図表1、図表2）。

FRCに典型的にみられるように、米国の中小銀行による経営不安緩和に向けた取り組みが現在続けられている。しかし、それが、経済、不動産市場の悪化を通じて、新たな銀行不安を引き寄せてしまう可能性があるのではないか。

図表1　米国銀行預金の週次変化

図表2　米国銀行貸し出しの週次変化

（参考資料）
"First Republic Mulls $100 Billion Asset Sale in Turnaround Plan", Bloomberg, April 25, 2023
"First Republic Survival Plan May Curb Jumbo Mortgages It Prized", Bloomberg, April 25, 2023
「米16地銀、預金5％減　ファースト・リパブリック４割減　３月末、昨年末比」、2023年4月6日、日本経済新聞

執筆者情報

• 木内 登英

  エグゼクティブ・エコノミスト