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植田日銀総裁は初回の会合で政策変更を見送り:フォワード・ガイダンスを修正、1年から1年半で政策レビューを行う

2023/04/28

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政策金利のフォワード・ガイダンスは削除も金融緩和バイアスは継続

4月27・28日に開かれた植田総裁にとって初回となる金融政策決定会合では、大方の事前予想通りに政策変更は見送られた。他方で、対外公表分では、先行きの政策方針を示すフォワード・ガイダンスの記述が修正された。さらに、過去25年にわたる異例の金融緩和(非伝統的金融緩和)について、「1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うこととした」と説明された。

フォワード・ガイダンスについては、従来4つのパートに分けて記述されていたうち、コロナ対策に関わる第3のパートと、同じくコロナ問題を受けて導入された、先行きの長短金利の方向性について緩和バイアスであることを示す第4のパートが、ともに削除された(コラム「植田日銀がフォワード・ガイダンスを見直す可能性」、2023年4月27日)。

第3のパートにある「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」との文言を、コロナ対応に限定された措置ではなく、一般的な政策方針として改めて示した形である。

5月8日に、新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げることを、4月27日に政府が正式決定したことを受け、日本銀行はコロナ問題への対応を示す第3のパートのフォワード・ガイダンスを今回削除することは、十分に予想された点だ(コラム「植田日銀がフォワード・ガイダンスを見直す可能性」、2023年4月27日)。

他方、「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」とした政策金利についての緩和バイアスを削除したのは、やや意外であった。

しかし、「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」との文言には、量的な政策だけでなく、政策金利の方針についても金融緩和バイアスであることが含まれていると考えられることから、政策姿勢全体には変化はないと言えるのではないか。

対外公表分の文言で植田色を滲ます

他方、「粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく」との新たな文言は、2%の物価目標を現時点では維持し、また、金融緩和を続けていく姿勢を示している。

しかし、金融緩和を続けていくとの姿勢は、金融緩和の枠組みを見直すことと矛盾はしない(コラム「植田日銀総裁の「金融緩和の継続が適当」≠「金融緩和を見直さない」」、2023年4月26日)。

従来の文言では、2%の物価目標達成までは、金融緩和の枠組みを変えない(一歩も引かない)とのニュアンスであったが、それは黒田体制のもとでの方針であり、今回それは修正されたのである。この点からも、金融緩和の枠組みの見直しをいずれ行う蓋然性は高いと感じられる。

「レビュー」には政策の見直しは直ぐに行わないとの市場へのメッセージ

この点をより明確に示したのが、過去25年にわたる異例の金融緩和(非伝統的金融緩和)について、「1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うこととした」、との記述が示されたことだ。この文言は、政策の見直しは直ぐには実施されない、というメッセージを金融市場に送る狙いもあるのだろう。

植田総裁は、当面は金融緩和状態を維持する考えであるが、その中で、異例の金融緩和(非伝統的な金融緩和)がもたらす副作用を減らすような枠組みの見直しは実施するとみられる。それは、ここでいう「レビュー」を踏まえて実施されるのだろう。

筆者はマイナス金利解除、イールドカーブ・コントロール(YCC)廃止などの本格的な金融緩和の枠組みの見直しは、2024年後半以降になると考えている。ここでいう1年から1年半程度という時間軸は、それと整合的であるようにも思える。

「レビュー」と金融緩和の枠組み見直しは段階的に時間をかけて行われるか

「レビュー」で政策の副作用、問題点を洗い出し、金融緩和状態を維持しつつも副作用を軽減する形で、金融緩和の枠組みを見直していく、というのが植田総裁の向こう5年の基本的な姿勢になるのではないか。

ただし、1年から1年半後に政策の副作用、問題点を一気に総括する、ということにはならないだろう。その場合には、枠組みの見直しが一気に実施されるとの観測から、金融市場が混乱するリスクが高まるからだ。

日本銀行は、個々の政策の枠組みについて随時レビューを行い、枠組みの見直しを、相応に時間をかけて段階的に行うことになるだろう。過去に日本銀行が行ってきた「検証」、「点検」などと同様に、「レビュー」の結果が示される際には、それは政策の修正がほぼ同時に実施されることになるのではないか。

展望レポートでは2%の達成がなお見通せないことが示された

さて、今回の決定会合で注目されていた展望レポートでの物価見通しは、2023年度、2024年度については予想通りに上方修正された。また、新たに示された2025年度でのコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)の前年比は、+1.6%となった。これは事前予想を下回るものであり、依然として2%の物価目標の達成が見通せないことを示している。それ自体は、早期の政策修正観測を後退させるものとなる可能性がある。

しかし実際には、2%の物価目標の達成が見通せない状況下で、あるいは、2%の物価目標を中長期の目標などに柔軟化したうえで、日本銀行は金融緩和状態は維持しながらも副作用軽減を狙って金融緩和の枠組みを見直していくことになるだろう。

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