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大きな混乱は回避も銀行システムの脆弱さを再確認させたファースト・リパブリックバンク破綻とJPモルガンによる買収:預金保険制度改革議論も加速

2023/05/02

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破綻したファースト・リパブリックバンクは金利リスクの管理に失敗

米預金保険公社(FDIC)は5月1日、経営が行き詰っていたファースト・リパブリックバンクの破綻処理を決め、同行を管理下に置いたことを発表した。そのうえで緊急入札を実施し、最終的にJPモルガン・チェースによる買収提案の受け入れを決めたのである。

同行の資産規模は4月13日時点で2,291億ドルであり、全米14位(2022年末)だった。破綻した銀行の資産規模としては、3月のシリコンバレーバンク(SVB)を上回り、2008年のリーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアル(資産規模約3,070億ドル)に次ぐ史上2番目となった。

ファースト・リパブリックバンクの経営が大きく躓くきっかけとなったのは、ジャンボモーゲージ(大型不動産ローン)の拡大だ。これは、シリコンバレーの富裕層に対して「インタレストオンリー」で貸し出すものだ。通常、10年もの間は元本を返済する必要がなく、利払いだけすればよいという商品だ。これによって同行の資産は膨れ上がった。

他方で、昨年来の金利急上昇を受け資金調達コストが高まったことで、利鞘が急速に悪化したのである。SVBの場合は金利上昇によって保有債券の損失が拡大したが、ファースト・リパブリックバンクの場合もやはり金利リスクの管理に失敗したのである。

ファースト・リパブリックバンクは4月24日に発表した1-3月期決算で予想以上の預金流出と収益悪化が明らかになったことで株価が急落し、経営不安が深刻になっていた。週末の間にスピード処理がなされたことで、ファースト・リパブリックバンクの業務は5月1日も継続され、顧客の預金へのアクセスも制限されなかった。

JPモルガンが三度目の救世主に

JPモルガンはフォースト・リパブリックバンクの融資債権約1,730億ドルと証券300億ドル相当、預金920億ドルを引き取る。1-3月期の平均で、ファースト・リパブリックバンクの融資総額は2,087億ドル、証券は336億ドル、預金が1,051億ドルであった。それぞれの相当部分をJPモルガンが引き継いだとみられる。

発表によると、JPモルガンは買収を巡り26億ドルの一時利益を計上する予定だという。また、向こう1年半で20億ドルの関連再編コストを見込んでいる。

ファースト・リパブリックバンクの買収代金として、JPモルガンはFDICに106億ドルを支払う包括的な買収を提案した。

JPモルガンはリーマンショック時に、大手投資銀行のベア・スターンズとワシントン・ミューチュアルを買収した。今回もJPモルガンは銀行危機時に救世主の役割を果たしたのである。

ただし、両者の買収は高くついた面があった。ワシントン・ミューチュアルの買収によって、JPモルガンは長期にわたる訴訟や数十億ドルに上る支払い負担を強いられた。問題のある住宅ローンに起因する補償責任の所在を巡る問題はJPモルガンについてまわった。またベア・スターンズの買収では、デリバティブなど複雑な商品に関わる問題も生じた。そのため、JPモルガンのダイモンCEO(最高経営責任者)は、この2つの買収について、後悔していることをその後明らかにしてきた。

ただし、今回のファースト・リパブリックバンクはシンプルなビジネスモデルであり、隠れたリスクが小さいことが買収を決めた理由の一つであることを、JPモルガンは示唆している。

FDICの負担は約130億ドル。3つの米銀破綻処理で預金保険基金は3割減少

他方、FDICもJPモルガンが買収を受け入れるための好条件を提示した。FDICはファースト・リパブリックの不動産ローンと商業用ローンについて、それぞれ7年間と5年間、損失の80%を負担するとしている。

JPモルガンは、ファースト・リパブリックのローン債権については借り手の信用力が高く、焦げ付きのリスクは小さいものの、自己資本比率を計算する際のリスクアセット比率が高い点を問題視していた。そこで、FDICとの取り決めによって、ローン債権のリスクウエートを低く抑えることができ、買収による自己資本比率への打撃を緩和することができたようだ。さらにFDICはJPモルガンに対して、500億ドルの5年固定金利の融資も提供する。

この結果、今回の買収はFDICにとっては高くついた可能性がある。FDICは今回の破綻処理、買収に伴う預金保険基金の負担を約130億ドルと試算している。ただし、詳しい内訳は明らかにしていない。

3月のSVBとシグニチャーバンクの破綻処置では、FDICの負担は合計で230億ドルに上った。今回のファースト・リパブリックバンクの破綻処理を合わせると、約360億ドルとなる。FDICは昨年末時点で1,280億ドルの預金保険基金を保有していたが、その約28%を3つの銀行の破綻処理で使うことになる。今後は、銀行に対する保険料の引き上げを通じて基金残高の回復が図られるだろう。

3月のSVBとシグニチャーバンクの破綻処置の際には、FDICは2万5,000ドルの預金保険の上限を超える預金についても特例として全額保護を決め、それが、FDICの負担を高めた可能性がある。今回は、JPモルガンが、ファースト・リパブリックバンクの預金のすべてを継承することから、同様の問題は生じない。

預金保険制度を見直しへ

ただし、銀行不安が高まった際には、預金保険でカバーされない大口預金が各行から流出し、経営不安を増幅したことから、預金保険制の見直しが議会でも議論されるようになった。

そこでFDICは1日に、現在は大半の口座で25万ドル(約3400万円)までカバーされる預金保険について、3つの選択肢を提示した。そのうち、企業が保有する口座のカバー上限を現在よりも引き上げる「的を絞った」手法に切り替えることが、金融の安定にとって最善の選択肢であろう、と指摘している。こうした変更には議会での措置が必要になる。

この選択肢では、企業の決済用口座の預金保護上限が引き上げられる見込みだ。FDICは決済用口座で損失が生じた場合、給与など企業運営に支障を来す恐れがあるとしている。他方、投資用口座については預金保護上限引き上げが望ましいとはしておらず、決済用口座と同様の預金保護を行わない可能性が示唆されている。

他の2つの選択肢は、保険対象を現状のまま維持すること、すべての預金を対象にするよう変更することである。

ファースト・リパブリックバンクの破綻処理は、混乱もなく秩序だって進められた。ただし、3月以降実施されてきた同行への支援策は実を結ばず、結局、破綻を回避することはできなかったのである。このことは、長く続いた低金利下での銀行の過剰なリスクテイクの問題と、それに続く金利急騰が銀行システムに与えた打撃の大きさを浮き彫りにした。そして、米国の銀行不安がなお続いていることを印象付けたのである。それに加えて、ファースト・リパブリックバンクの破綻は、米国の預金保険制度の見直し議論を加速させることにもなりそうだ。

(参考資料)
"JPMorgan Ends First Republic's Turmoil After FDIC Seizure (2)"、"JPMorgan to Make Payment of $10.6B to FDIC on First Republic"、"JPMorgan to Acquire Failed Regional Bank First Republic (2)"、"First Republic Seized by Regulators, to Be Sold to JPMorgan (1)"、"First Republic Regulators Rush to Fix Crisis as Banks Make Bids"、"If JPMorgan Wins First Republic, OCC Standing By for Key Nod (1)", Bloomberg, May 1, 2023
"US Weighs More Business Deposit Insurance After Banks Fail (1)、US Weighs More Business Deposit Insurance After Bank Failures", Bloomberg, May 1, 2023
"With First Republic, JPMorgan’s Dimon Gets Over Financial Crisis Laments(破綻の米銀FRC、JPモルガンが買収へ FDICが損失分担)”, Wall Street Journal, May 1, 2023

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