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利上げ打ち止めの可能性を示唆したFOMC:先行きの不確実性は強まる

2023/05/08

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利上げ停止のメッセージが示される

米連邦準備制度理事会(FRB)は5月2・3日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を0.25%引き上げる利上げ策を決めた。2023年3月に利上げが開始されて以降、これで10会合連続での利上げであり、政策金利(FF金利の誘導目標)の水準は5.0%~5.25%となった。

会合の直前である1日には、ファースト・リパブリックバンクが破綻するなど銀行システムへの不安が再燃しているが、FRBが重視するPCEコア(個人消費支出物価指数、除く食料、エネルギー)が3月に前年同月比+4.6%と物価目標の2%を大幅に上回っていることなどから、引き続き物価の安定回復に比重を置いた政策決定を行った。

他方でFRBは、銀行システム不安やそれが経済に与える悪影響などにも配慮して、6月の次回FOMCで利上げを停止する可能性を明確に示唆した。前回の声明文にあった「いくらかの追加引き締めが適切となる可能性を見込む」の文言を削除したことが、利上げ停止のメッセージである。さらに、「委員会は今後もたらされる情報を注意深く監視し、金融政策への意味を評価する(the Committee will continue to monitor the implications of incoming information for the economic outlook)」「委員会は金融政策の度重なる引き締め、金融政策が経済活動とインフレ率に及ぼす影響の遅れ、および経済と金融の動向を考慮する」など、先行きの政策は今後の経済・金融情勢次第であるとして、追加利上げの可能性にも含みを残した。特に、銀行が与信を抑制していることが、どの程度、景気に悪影響を与え、金融引き締めと同様の効果を生じさせるかについて、FRBは慎重に見極めるとみられる。

またパウエル議長は記者会見で、年後半の利下げの可能性については、従来通りに否定的な発言をしている。

異例なほど不確実性が累積されている状況

今回の決定は、市場の事前予想に沿ったものであった。しかし、事前予想の中には、利上げ打ち止めとともに利下げの可能性を示唆するメッセージが発せられるという「ハト派」の期待や、他方で、追加利上げが示唆されるとの「タカ派」の期待もあった。実際には、そのいずれでもない、玉虫色で中途半端なメッセージとなった感があり、それが金融市場の不確実性をむしろ高めてしまった可能性があるのではないか。特に、景気の先行きへの不安は、今回の決定で一段と増幅されたのである。

利上げ打ち止めの可能性を受けて、長期金利は低下し、それに並行してドルは大きく下落した。ドル円レートは1ドル134円台まで円高ドル安が進んだ。他方で、利下げの可能性が否定されたことが景気の先行きへの不安を高め、株価は続落した。また、WTI原油先物価格が1バレル60ドル台まで下落するなど、商品市況も先行きの米国経済の減速懸念を強めたのである。

パウエル議長は年内の利下げに否定的な発言を繰り返したが、金融市場は、6月、7月に政策金利が据え置かれた後、早ければ9月にも利下げが実施され、年内には合計で0.5%~0.75%の利下げが織り込まれている。

今回のFOMCでは利上げ打ち止めのメッセージが出されたが、先行きの金融政策の見通しの不確実性はむしろ高まっている。今後の経済、物価情勢に加え、銀行不安問題の先行き、債務上限問題の行方など、異例なほど不確実性が累積されている。銀行不安や債務上限問題の行方次第では、6月あるいは7月の緊急利下げの可能性もあるだろう。

景気減速、銀行不安の深まりを背景に、年後半にはFRBが現在否定している利下げが実施される可能性をメインシナリオに据えておきたい。それは円高ドル安を加速させるだろう。

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