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米銀の融資基準厳格化と企業の資金需要鈍化が同時進行(FRB銀行融資調査)

2023/05/10

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米銀の融資基準厳格化と企業の資金需要鈍化が同時進行(FRB銀行融資調査)

米連邦準備制度理事会(FRB)は5月8日に、四半期調査であるシニア・ローン・オフィサー・オピニオン・サーベイ(上級融資担当者調査)を公表した。4月7日までの回答が反映されている。3月以降続く中堅銀行の破綻や経営不安の影響が、どの程度銀行の融資姿勢に表れているかを確認する、という観点から大いに注目を集めていた。

中・大規模企業向け融資基準を引き締めていると回答した銀行の割合は46.0%と、前回調査(2023年1月)の44.8%から上昇した(図表1)。ただし増加幅は3四半期連続で縮小しており、懸念されたほどの大幅な上昇とはならなかった。

しかし、2008年のリーマンショック時や2000年のコロナショック時も、融資基準の厳格化がこの調査結果に表れるまで若干の時間がかかったように見受けられる。そのため、3月から続く銀行の破綻や経営不安の影響は、次回7月調査により明確に表れる可能性もあることから、引き続き調査を注視しておきたい。

今回の融資基準の厳格化の程度は大きくなかったとはいえ、数値はコロナショックの後にFRBの大幅金融緩和などを受けて歴史的な減少を見せた後、2021年以降は急速に増加している。銀行破綻、経営不安が生じる前から、厳格化は急速に進んでいたのである。

またその水準を見ても、過去の景気後退期に匹敵している。米銀の融資基準の厳格化によって米国経済がかなり減速する可能性を示唆していると言えるのではないか。

図表1 企業向け貸出基準判断

銀行融資は供給側の要因と需要側の要因の双方によって抑制

融資基準の厳格化とは異なり、大幅に悪化したのが、企業の資金需要の判断である。その数値は中・大規模企業向け融資について-55.6と、前回調査の-31.3から悪化し、しかも悪化幅を加速させた(図表2)。経済活動の鈍化や先行きの経済情勢への不安が、企業の資金需要を低下させているのである。この資金需要判断の水準は、コロナショック時の数値を既に下回り、リーマンショック時の水準まで低下している。

銀行の融資は、融資基準の厳格化という資金の供給側の要因と、企業の資金需要という需要側の要因の双方によって抑制される傾向が強まっているのである。

図表2 企業の資金需要判断

経済情勢と金融情勢の相乗的な悪化のリスク

そこで、中・大規模企業向け融資基準と中・大規模企業の資金需要の判断を合成した指数を作成した。同指数は、2000年のネットバブル崩壊時、2008年のリーマンショック時、2020年のコロナショック時のそれぞれ最低水準と並ぶものとなっている(図表3)。

この点から、企業向け融資を巡る金融環境の悪化は、既に過去の景気後退時に匹敵するものとなっており、先行き米国経済が後退局面に陥る蓋然性は相応にあるものと考えられる。

景気減速が鮮明となれば、銀行の融資債権の劣化が進むことで、銀行は融資債権を含む資産のさらなる抑制を進め、それが経済情勢を一段と悪化させるという悪循環に陥る可能性があるだろう。

通常であれば、このような大幅な景気減速や金融情勢の悪化に対して、FRBが大幅な金融緩和を実施し、それが、事態が好転するきっかけとなってきた。しかし今回は、歴史的な物価高騰を受けてFRBは、物価高への警戒を緩めず、積極的な金融緩和には直ぐには転じない可能性が高い。その結果、経済と金融情勢の悪化は長期化しやすいだろう。

そうした中で、中堅銀行の破綻など銀行不安や金融市場の混乱も深まりやすいのではないか。米国経済の減速がより明らかになってから、事態は急速に悪化しやすい点に留意しておきたい。

図表3 合成指数と実質GDP成長率

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