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次の注目はプライベート・クレジット・ファンド

2023/05/11

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リーマンショック後に急成長を遂げたプライベート・クレジット・ファンド

米国で地方銀行の経営不安が続く中、ノンバンク(非銀行金融仲介機関)が抱える金融リスクも注目されている。さらに、ノンバンクの中でも、機関投資家や富裕層から資金を集め、信用リスクが高い無格付けや低格付けの企業など、多くは非上場の企業に対して直接融資を行う「プライベート・クレジット・ファンド」への注目がにわかに高まっている。

これは、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後に急成長を遂げた新しいタイプのファンドである。社債を発行するには規模が小さすぎるものの、制限の多い銀行融資には頼りたくないと考える企業向けの融資を支えている。

プライベート・クレジット・ファンドについて開示されている情報は限られている。米連邦準備制度理事会(FRB)によれば、2021年末時点でプライベート・クレジット・ファンドの数は2,500程度、資産総額は1兆ドル程度、投資していない待機資金(dry powder)は2,280億ドルだという。

プライベート・クレジット・ファンドは2022年以降も成長を続けている。国際通貨基金(IMF)によると、プライベート・クレジット・ファンドは2008年初め以降およそ6倍にまで拡大し、現時点での資産規模は1兆5,000億ドル程度と見積もられている。

現時点では、1.4兆ドル規模のレバレッジドローン、1.5兆ドル規模のハイイールド債とほぼ肩を並べているとみられる。

またFRBによれば、プライベート・クレジット・ファンドへの投資家構成(資産規模)は、2021年末時点で公的・私的年金が31%、プライベート・エクイティなどその他のプライベート・ファンドが14%、保険会社が9%、個人が9%である。

債権者の観点から企業の成長を促す

プライベート・クレジット・ファンドの主な運営者は、アレス・マネジメント、HPSインベストメント・パートナーズ、ブラックストーン、ブラックロック、アポロ・グローバル・マネジメント、カーライル・グループ、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどで、これら企業の多くは著名なプライベート・エクイティ(PE)会社でもあるという(ウォールストリート・ジャーナル紙)。

ちなみに、プライベート・エクイティ大手のブラックストーンの場合には、企業に融資を行うだけでなく、経営助言などのサービスも提供しており、投資家ではなく債権者の立場から企業を成長させることを目指すという。

最近ではプライベート・エクイティ・ファンドが企業を買収する際に、プライベート・クレジット・ファンドから資金を調達する事例が増えているという。プライベート・クレジット・ファンドは銀行などと比べて意思決定が早く、プライベート・エクイティ・ファンドには重宝されているようだ。

プライベート・クレジット・ファンドの破綻リスクは小さいが。。。

プライベート・クレジット・ファンドが抱える金融面でのリスクについては見方は分かれている。FRBはプライベート・クレジット・ファンドのリスクは必ずしも大きくないとしている。その理由は主に3つである。

第1に、多くは解約が制限されたクローズドエンド型であり、一気に資金が引き上げられることがない。第2に、借り入れの割合(レバレッジ比率)が小さいことから、債務不履行に陥り難い。第3に、変動金利での貸出が中心であるため、昨年来の金利上昇局面でも貸出資産の大きな劣化が生じていない。

IMFはプライベート・クレジット・ファンドのリスクを警戒

一方でIMFは、プライベート・クレジット・ファンドが金融面で大きなリスクを抱えていると考える。

プライベート・クレジット・ファンドは、米証券取引委員会(SEC)への登録が義務づけられている株や債券、あるいは当局の規制下に置かれている銀行融資と比べて、透明性がかなり低い。IMFによると、規制当局は過去10年に情報収集を強化してきたものの、依然として情報は不足しているという。

この点も踏まえて、IMFはプライベート・クレジット・ファンドに関する複数のリスクに言及している。プライベート・クレジット・ファンドは、景気減速の影響を受けやすい企業のレバレッジド・バイアウト(LBO=買収先の資産を担保にした借金による買収)に資金を提供することが多いという。

さらにプライベート・クレジット・ファンドの運用担当者は、他の同業の案件についても資金の出し手になっていることが多いという。また、プライベート・クレジット・ファンドに資金提供を行う投資家は、プライベート・エクイティ・ファンドなど他のオルタナティブ資産の投資にも関与している。つまり、他のノンバンクとの相互連関性が高く、これがファンドの経営不安や金融市場の動揺を増幅させる恐れがあることを、IMFは警戒しているのである。

金融問題は金利上昇から企業の信用リスク上昇へ

足元で生じている米銀の破綻、経営不安は、金利の大幅上昇という環境変化に適応できない、いわば金利リスク管理の失敗に基づくものである。他方、米国経済や企業経営はなお安定を維持していることから、貸出先の信用リスクの問題はまだ大きく表面化していない。

しかし、この先、大幅な金融引き締めや銀行不安を受けた銀行の貸出抑制などの影響で、米国経済は顕著に減速する可能性がある。銀行の企業向け融資については、貸出基準の厳格化と資金需要の減速が同時に進んでおり、融資を巡る資金環境は、過去の景気後退時と並ぶ水準にまで一気に悪化している(コラム「米銀の融資基準厳格化と企業の資金需要鈍化が同時進行(FRB銀行融資調査)」、2023年5月10日)。

ひとたび米国経済が顕著に悪化すれば、企業向けを中心に銀行の貸出債権の劣化が進み、今度は、金利上昇ではなく信用リスク上昇による新たな銀行不安を高めることになるだろう。これが、銀行不安の第2ラウンドである。

さらに、企業の信用リスク上昇は、ハイイールド債やレバレッジドローン(低格付け企業向け融資)の証券化商品CLO(ローン担保証券)などの価格下落を生じさせ、それを保有するファンドに大きな損失を生じさせるだろう。

その結果、オープン型ファンドでは、顧客資金の急激な流出で金融資産の投げ売りを強いられ、破綻に追い込まれるところも出てくるのではないか。

プライベート・クレジット・ファンドが危機の震源地の一つに

企業の信用リスクが高まる局面となれば、プライベート・クレジット・ファンドにも大きな打撃が及ぶ。プライベート・クレジット・ファンドには、流動性に大きな問題を抱えた企業にも融資を行っているものがあり、大きな信用リスクを抱えている。この先、非上場企業の信用リスクが高まっていけば、ファンドの運用パフォーマンスが悪化し、それを機に顧客による新規の資金流入が停止し、徐々に資金が引き上げられていく可能性があるだろう。

そうなれば融資が減少、つまり資金ひっ迫傾向が強まり、プライベート・クレジット・ファンドの資金に依存してきた非上場企業の経営が大きく悪化する。さらにそれがプライベート・クレジット・ファンドに損失をもたらす、といった悪循環が生じる可能性が懸念される。

また、プライベート・クレジット・ファンドの運用リターンが悪化すれば、そこに投資をしているオープン型ファンドの運用リターンも悪化し、そこから顧客の資金流出が強まり、換金売りが金融市場を混乱させる可能性もある。このような経路で、プライベート・クレジット・ファンドを媒介して、他のファンドの経営が大きく揺さぶられてしまう可能性もあるだろう。

景気悪化を引き金として、金利上昇リスクに代わって企業の信用リスクの上昇が新たな金融不安を生じさせることが予想される。その場合、銀行の融資、ハイイールド債などの債券の双方で資金ひっ迫傾向が強まり、銀行とファンドなどが同時に経営不安に陥ることが予想される。金融不安は金融商品の一部、あるいは金融機関の一部で生じるのではなく、同時に高まりやすいだろう。
そうした中、信用リスクの高い企業の資金調達を担ってきたプライベート・クレジット・ファンドが、危機の震源地の一つとなる可能性に留意しておきたい。

(参考資料)
"Banking Problems May Be Tip of Debt Iceberg(銀行危機「氷山の一角」か、債務膨張の危うさ)",Wall Street Journal, April 27, 2023
"Financial Stability Report, May 2023", FRB
「米ブラックロック幹部「代替投資、インフレ対応に有効」」、2023年5月7日。日本経済新聞電子版
「プロ向けファンド 個人にも普及するか 金利上昇に耐性、非上場企業に融資」、2023年4月9日、日経ヴェリタス

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