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なお遠い米国債務上限・デフォルト問題の解決:金融市場の動揺が問題解決の鍵であり懸念でもある構図

2023/05/17

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政府債務上限の引き上げで早期合意は難しい

米国では、政府債務上限の引き上げを巡り、野党・共和党のマッカーシー下院議長ら米議会の与野党トップと民主党のバイデン大統領との交渉が、16日に再開される。前回は9日に行われ、物別れに終わった(コラム「債務上限問題で米政府がデフォルトに陥るXデーが近づく:景気悪化や銀行不安再燃の引き金にも」、2023年5月9日、「米国債務上限・デフォルト問題では金融市場の混乱と世論の動向が鍵に」、2023年5月16日)。

バイデン大統領は、政府債務上限引き上げの合意の可能性について問われると、「彼ら(共和党)にも合意しようという意思がある。私はそれが可能だと思う」と楽観的とも受け取れる発言をしている。

バイデン大統領は19日から広島で開かれるサミットに予定通りに参加する考えを示している。世界の金融市場を揺るがし、米国のリーダーシップに打撃となるこの問題を解決したうえで、G7サミットに参加することが望ましいだろう。未解決のままG7サミットに参加すれば、他国からは強い懸念が示され、早期の解決を強く求められるのが必至だからだ。

しかし実際には、再交渉で一気に合意に達する可能性は限られるだろう。他方で共和党のマッカーシー下院議長は「目に見える進展は何もない」と合意に悲観的な発言をしている。

金融市場の動揺が合意の糸口に

6月上旬には国債の利払いが滞り、米国債がデフォルトに陥る「Xデー」が到来するとされる。そこまで数週間に迫っているが、与野党間がそれぞれ妥協することで合意に至る機運は、全く高まっていない。16日の交渉も、進展がなく終わる可能性が高いのではないか。

合意に至るためには、まず株価の大幅下落など金融市場が大きく動揺し、それを受けて国民の危機意識が高まることが必要となるのではないか。そのうえで、国民の間で、この問題で民主、共和両党のどちらにより責任があるのか、についてコンセンサスが成立していけば、より責任があるとされる政党が、来年の大統領選挙への悪影響を警戒して、より譲歩する形で合意が成立するだろう。

株式市場はなお楽観的

米国金融市場でデフォルトのリスクを部分的ながらも明確に織り込んでいるのが、短期国債市場だ。現時点で1か月物短期国債の利回りは5.56%程度と、2か月物国債の利回りの4.90%程度を大きく上回っている。向う数週間程度の間に短期国債の利払いが一時的に滞り、テクニカルデフォルトに陥るリスクを部分的に反映している。

また、米国債がデフォルトする場合に備える保険に相当するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率(5年物)は、0.7%台と約14年ぶりの水準にまで上昇している。

しかし、株式市場は債務上限問題にまだ大きく反応していない。国民が危機意識を高めるためには、債券市場ではなく株式市場の大きな調整が必要と考えられるが、現状では株式市場は、過去と同様に「Xデー」までに問題は解決されるものと楽観視している。株式市場が悪く反応しない限り、問題解決に向けた国民や議会の危機感は高まらないだろう。

ちなみに、前回債務上限問題が大きく紛糾した2011年には、上限引き上げ後に米国債の格下げが行われたこともあり、「Xデー」前後の約10日間に米国株(S&P500)は17%下落した。

債務上限問題を巡る交渉はまだかなり長引く

債務上限問題を巡る交渉は、まだかなり長引くことを覚悟しておく必要があるのではないか。仮に6月上旬に「Xデー」が到来しても、政府はメディケア(高齢者向け医療保険制度)、軍の給与などの支払いを一時的に止めて、国債の利払いを優先させることで、デフォルトの時期を先送りすることは可能である。もちろんその場合には、経済や国民生活への悪影響、国民からの批判を覚悟しなければならない。

しかし、そのようにして一時しのぎができれば、6月15日には四半期ごとの法人税収が入ってきて国庫に余裕が生じるため、今度は7月下旬まで「Xデー」を先送りすることが可能となる。

このように、債務上限問題を巡る交渉は長期化する可能性があるだろう。さらにデフォルトを回避するために、一種の禁じ手として政府は、政府債務が制限を受けないことを示す修正憲法14条を根拠に、法定債務上限を違憲として国債発行を再開することも可能だ。さらに、政府が1兆ドルのプラチナコインを発行し、それを米連邦準備制度理事会(FRB)に買い取らせて代金を国庫に振り込ませる、という奇策もある(コラム「債務上限問題で米国政府にデフォルトリスク:米政府が1兆ドルのプラチナコイン発行を検討」、2023年1月26日)。

こうした点を踏まえると、米国政府が建国以来初めてとなるデフォルトに陥る可能性は限られるだろう。しかし、金融市場がそのように考え、動揺しない間は、問題解決に向かう機運は高まらない、という難しい構図である。

米国は「トリプル安」になるかどうかに注目

既に述べたが、2011年の時には、「Xデー」前後の約10日間に米国株(S&P500)は17%下落したが、欧州株(ユーロストック)は約22%、日経平均も約10%下落している。海外市場に与えた影響も大きかったのである。

他方、同時期にドル円は2%下落し、米国10年国債利回りは0.9%程度下落した。国債が格下げされて信用リスクが高まったものの、金融市場がリスク回避傾向を強めると、米国債は安全資産として買われ、価格は上昇、金利は低下したのである。同様に、金融市場がリスク回避傾向を強めると、事実上の基軸通貨であるドルを確保しようとする動きが一部で生じるため、大きめの株安にも関わらずドルはそれほど下落しなかった、というのが2011年の総括である。

しかし、今回はデフォルトリスクが高まり、あるいは国債の再度の格下げとなれば、信用リスクの高まりがリスク回避傾向の影響を上回って、米国債が下がり、長期金利が上昇する可能性もあるだろう。それは、債券含み損をさらに拡大させることで、足元の米銀不安を増幅させる可能性が考えられる。

その場合には、ドルの下落幅もより大きくなり、米国は「トリプル安」の傾向を強める。そうなれば、海外金融市場への影響も2011年の時よりも大きくなり、より急速な円高株安進行で、日本経済が大きな打撃を受ける可能性も出てくる。

デフォルトの可能性は大きくないと考えるが、金融市場がデフォルトのリスクを本気で心配して動揺しないと、問題解決への機運は高まらないという問題がある。この点も踏まえ、世界の金融市場は前回2011年以上に大きな打撃が生じる可能性にも留意しておきたいところだ。

(参考資料)
「米債務上限「Xデー」3つのシナリオ 不履行なら市場急変」、2023年5月16日、日本経済新聞電子版
「米債務上限問題、強まる膠着感 国債CDS14年ぶり高水準、市場は警戒」、2023年5月14日、日経ヴェリタス

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