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2023/05/18

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世界経済の構造変化とG7サミットのプレゼンス低下

2023年5月19日から21日までの3日間、広島でG7サミット(先進7か国首脳会議)が開かれる。ウクライナ侵攻を行ったロシアへの制裁、安全保障、経済・貿易など多分野にわたる中国への対抗といった点で、G7各国は近年になく結束を強めているのが現状だ。それを改めて確認するサミットとなるだろう。さらに、グローバルサウスの取り込みを強く意識したものとなりそうだ。

わずか数年前には、G7サミットは機能不全に陥っていた。2016年に就任した当時のトランプ米国大統領は米国第一主義を掲げ、G7サミットを含む多国間主義の枠組みすべてに否定的な姿勢をとった。

特に自由貿易の推進、気候変動対策に後ろ向きであったトランプ氏は、G7サミットの場で他の先進国の首脳らと激しくぶつかった。2018年には、「反保護主義」を盛り込んだ首脳宣言が採択された後に、トランプ氏はその承認を拒否した。2019年にはトランプ氏の反対により、包括的な首脳宣言の取りまとめを初めて断念せざるを得なかった。こうして、長らく世界を主導してきたG7サミットの威信は、大きく傷つくことになったのである。2021年に、多国間主義を重視するバイデン米大統領が就任したことで、G7サミットは再び結束を取り戻していった。

こうしてG7サミットでの先進国の結束は再び強まったものの、他方で、世界経済の課題への対応を主導する、という発足当初の理念に照らせば、G7サミットの機能は大きく低下してしまったと言えるだろう。

日本、米国、フランス、英国、西ドイツが参加するG5という枠組みにイタリアが加わり、1975年にG6サミットが始まった。さらに翌1976年にはカナダが加わって、現在のG7サミットとなった。その後、東西冷戦の終結と共にロシアが加わりG8となるが、クリミア半島併合が国際世論の大きな批判を浴びて2014年にロシアが脱会し、再びG7サミットとなった。

G7サミットが初めて開かれた際には、第1次オイルショックによる世界経済の混乱に対応することが、その最大の狙いだった。G7は、世界各国が共通して抱える経済的な課題への対応を、世界のリーダーらが話し合う場として始まったのである。しかしその後は、自由主義、民主主義、人権擁護などの基本的価値を共有するG7各国の首脳が意見交換を行い、結束を確認する場として、政治的な色彩が強まっていった。

ところがこの間、経済的側面においてG7のプレゼンスは着実に低下していったのである(図表)。世界経済の中で新興国の占める割合が上昇する一方、先進国の占める割合が低下するという、世界経済の構造変化が背景にある。国際通貨基金(IMF)の統計によると、G7サミットが始まった直後の1980年時点で、世界の名目GDPに占めるG7諸国のGDPの割合は61%だった。ところが2000年代に入ると、世界経済の中でのG7諸国の比率は顕著に低下を始めたのである。そうした世界経済の構造変化を加速させたのは、2001年に世界貿易機構(WTO)に加盟して先進国市場へのアクセスを強めた中国が高成長を続けたことだ。

米国を震源地とする2008年9月のリーマン・ショック(グローバル金融危機)で先進国経済が躓いたことを受け、2010年には世界のGDPに占めるG7諸国の割合はついに50%を下回ったのである。この時点で、G7が世界経済の動向を大きく左右するような政策を決定することは、その根拠を失ってしまったとも言える。

図表 世界のGDPに占めるG7の比率の変化

強まるG20の機能不全と進む世界の分裂

リーマン・ショック後に中国は、4兆元(約57兆円)規模の巨額の景気対策を実施した。これは国内経済を支えることを目的にしたものであったが、結果的に低迷する世界経済を下支えし、「中国が世界経済を救った」と称賛もされた。これをきっかけに、世界経済における新興国全体のプレゼンスが一気に高まった感がある。新興国を抜きにして世界経済が抱える課題を解決することは難しい、との認識が先進国の間にも広がっていった。

そこで始まったのがG20サミット(主要20か国・地域首脳会議)だ。1997年のアジア通貨危機等をきっかけに、国際金融システムの議論を行うためにはG7に加えて主要な新興国の参加が重要との認識が広まっていった。そして、1999年にはG20(主要20か国・地域)財務大臣・中央銀行総裁会議が初めて開かれた。さらに、リーマン・ショックが引き起こした世界的規模の経済・金融危機に対処するため、2008年11月にワシントンDCで初めてG20サミットが開催されたのである。

この際に主要新興国は、先進国によって彼らの影響力が認められるようになり、今後は自らの利害がより反映された世界秩序が形作られていくことを強く期待したのではないか。戦後の安全保障体制、貿易体制、金融体制などは先進国に都合よく構築されていき、その中で自らの利害が大きく損なわれてきた、と考える新興国は多かったからである。

しかし、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」の例えのごとく、リーマン・ショックの傷跡が次第に癒えていく中、先進国はG20ではなくG7が主導する枠組みを再び強く志向し始めた。この際の新興国の大きな失望が、現在の世界の分裂、多極化につながっている側面もあるように思われる。

先進国と中国との対立が強まるに及び、G20とG7との距離感は一段と広がっていった。G7が中国の半導体などの産業政策や「一帯一路構想」への対抗を強め、中国封じ込めを進める一方、中国が参加するG20では、中国を刺激しないようにそうしたテーマは外されるようになった。G20では、債務国問題、環境問題、コロナ対策など、中国と先進国の間で激しい対立が生じないテーマに絞って議論されるようになっていった。その結果、G7とG20の間の連動性は崩れてしまった感がある。

そうした傾向は、ロシアによるウクライナ侵攻で一層強まった。G20財務相・中央銀行総裁会議、G20外務相会合では、ロシアを非難する文言を共同声明に盛り込むことに、ロシアあるいは中国が反対するため、共同声明が採決できない状況が今も続いている。

そうしたなかで、世界は、先進国の民主主義勢力、中露を中心とする権威主義勢力、インドやアフリカ諸国が主導し中立的な姿勢を維持するグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)の3つへと大きく分裂した感がある。そして、G20は民主主義勢力と権威主義勢力とが激しくぶつかり合い、グローバルサウスを取り込む陣取り合戦の場の様相を強めている。

民主主義の理念だけではグローバルサウスの取り込みは難しい

バイデン米大統領は今年3月に、第2回「民主主義サミット」を開催した。初参加8か国のうち5か国がアフリカの国々だ。中国やロシアが経済面、軍事面で関与を強めるアフリカ地域を中心に存在感を高めているグローバルサウスを、民主主義勢力に取り込む狙いがあった。ただし、世界を民主主義国と権威主義国といった、敵と味方の2つに分ける論法については、世界の分断化を煽っているとの批判が米国内からも出されたのである。

バイデン政権は民主主義サミットで、人権尊重、自由で公正な選挙、公平な司法制度、汚職防止などの民主主義の諸原則を確認したうえで、国際法の順守、デジタル技術の適正な利用、サイバー空間での人権擁護への取り組みを加速させる「民主主義サミット宣言」を発表した。しかし、参加約120か国・地域のうち、この宣言への支持を表明したのは、全体の約6割にあたる73か国・地域に留まった。自由、人権などの民主主義の理念だけでは、グローバルサウスを民主主義国家の陣営に取り込むことは難しい。

民主主義サミットなどでの米国のアプローチは、先進国と中露との分断をいたずらに煽る一方、分断から生じる様々な問題の解決には貢献しないようにも思われる。

アジア地域を中心に、米国がグローバルサウスの国々を思うように取り込んでいけない理由の一つは、貿易政策にあるのではないか。米国はトランプ前政権の時代に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉から離脱したが、その後もTPPへの参加に慎重な姿勢を続けている。他方で、ASEAN諸国が中国の経済圏に取り込まれていくことを食い止める狙いなどから、バイデン政権は、アジア地域に新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を2022年5月に発効させた。

ところが、アジアの新興諸国は関税引き下げを含まないこの枠組みに大きな魅力を感じない。関税引き下げが含まれていれば、世界最大の米国市場によりアクセスできるため、中長期の経済的メリットも大きい。しかし、自国の経済利益を最優先し、関税引き下げを含む新たな自由貿易協定の締結に慎重な米国議会が、それを阻んだのである。

G7とG20の一体改革を進めよ

新興諸国には、先進国が主導する国際秩序への不満が長年あり、それが、ウクライナ問題をきっかけに噴出した、という面もあるのではないか。先進国はG20の場で、ウクライナ問題だけではなく多様なテーマについて新興国と真摯に議論をし、新興国の経済的利害をより反映させるような取り組みをしていく姿勢を示すことが重要だろう。

その対応を誤れば、グローバルサウスは権威主義勢力へと接近していき、民主主義勢力と権威主義勢力との闘いは、先進国と新興国全体との闘いの構図へと転化してしまいかねない。それを回避できるのかどうか、先進国にとって今は正念場である。

米国が、法の支配、基本的人権の尊重などの民主主義の価値観をアピールしても、それだけで、グローバルサウスが先進国を強く支持するようになる訳ではない。彼らが真に欲しているのは、経済的なメリットである。しかも、長期にわたって安定的に成長できる環境を得ることだ。こうした中、各種支援など短期的な経済メリットを供与するだけでは、グローバルサウスの心を掴むことは難しいのではないか。

先進国と新興国の一体感を回復するためには、G7とG20とを同時に改革していくことが必要となる。G7は、新興国に自らの価値観を押し付けるのではなく、多様な価値を認めたうえで、政治、安全保障、経済、金融など先進国主導で形作られてきた秩序を、必要に応じて柔軟に見直していくことも必要だろう。そうした姿勢こそが、世界の分裂を回避しつつ、先進国が再び世界で信頼感と尊敬を回復し、リーダーとしての役割を取り戻すことにつながるだろう。

またG7サミットは政治色を薄め、発足当初のようにすべての国が関わる世界経済の共通の課題を議論する場にしていくべきではないか。さらに、G7サミットでは、様々な世界規模での経済的な課題に対して、その解決法を企画・立案し、それをG20あるいはG20サミットの場に提示して、そこで新興国の利害を十分に尊重しつつ最終決定を行う、という両サミットの2層構造を強化、再構築していくことが重要と思われる。

そうした改革の過程で、意思決定の権限はG7からG20へとその比重が移っていくことになるが、それは新興国経済の影響力が高まるという世界経済の不可逆的な構造変化を踏まえれば、自然なことなのではないか。

(参考資料)
拙稿「形骸化が進むG7、打つべき改革への布石」(『週刊金融財政事情』2023年5月16日号)

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