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米債務上限引き上げで再度合意できず:今後の展開で4つのシナリオ

2023/05/23

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3回目の協議でも合意できず

米国時間22日午後(日本時間23日午前)に、バイデン大統領とマッカーシー下院議長(共和党)は、米国のデフォルト(債務不履行)回避に向けて、債務上限引き上げの協議を行った。5月9日以降、3回目である。協議は1時間程度続いたが、合意は得られなかった。

マッカーシー下院議長は、「建設的な話し合い」だったとしつつも、「まだ合意に至っていない」とした。バイデン大統領は、「債務不履行の選択肢がない点で下院議長と一致した」、「話し合いを続ける」と語った。下院議長は、「合意に達するまでバイデン大統領と毎日協議する見通しだ」としている。

バイデン大統領は1兆ドルの歳出削減を検討するとしており、債務上限引き上げの条件として歳出削減を求める共和党に歩み寄る姿勢を初めて示した。しかし、両者の隔たりはなお大きく、まだ早期に合意に達する状況ではないとみられる。

バイデン大統領は、共和党が求める歳出削減に加えて、歳入面で富裕者に応分の負担を求める必要性を強調したが、この点では両者の意見の隔たりがあると説明した。

金融市場の混乱は次第に深まるか

金融市場では短期国債の利回りが全体的に上昇傾向を強めており、デフォルトのリスクを徐々に織り込む動きを見せている。しかし、株価は比較的安定を維持しており、また5月に入ってドルはむしろ強含んでいる。国民の関心が高い株価が大きく下落するような状況にならないと、合意に向かう求心力はなかなか高まらないのではないか。

イエレン財務長官は、債務上限が引き上げられない場合、6月上旬に政府の資金が底をつくとの見通しを連日繰り返している。そのうえで、6月1日にもそうなるリスクがあることから、5月中に債務上限の引き上げを決める必要があると強調する。

今後の展開で4つのシナリオ

債務上限引き上げとデフォルトを巡る今後の展開については、4つのシナリオが考えられる。第1は、5月中に債務上限が引き上げられ、政府のデフォルトが回避されるシナリオである。この場合には、金融市場の大きな混乱は回避され、経済への悪影響も限られる。

第2は、債務上限引き上げが6月上旬までずれ込むシナリオだ。この場合、デフォルトリスクが強く意識されるようになり、株価下落を中心に金融市場は混迷を強める。財務省は、公務員、軍人の給与支払いの延期などを実施し、国債の利払いを優先することでデフォルトを回避する、あるいはそれに備える可能性が出てくる。

第3は、債務上限引き上げが7月までずれ込むシナリオだ。財務省が、国債の利払いを優先する施策を講じることで、デフォルトの時期は先送り可能となる。6月15日には四半期ごとの法人税収が入ってきて国庫に余裕が生じるため、6月上旬を乗り切れば、今度は7月下旬までデフォルトを先送りすることが可能となる。

さらにデフォルトを回避するために、一種の禁じ手ではあるが、政府は、政府債務が制限を受けないことを示唆する修正憲法14条を根拠に、法定債務上限を違憲として国債発行を再開することも可能だ。

第4は、債務上限が引き上げられない中、国債の利払いが実施されず、政府がデフォルトに陥るシナリオだ。デフォルト状態は一時的なもので、早期に債務上限引き上げ、適用停止あるいは修正憲法14条を根拠とする法定債務上限の無効化を経て、国債発行は再開される可能性は高い。

それでも米国政府が建国以来初めてとなる(テクニカル)デフォルトに陥ることによる、世界の金融市場に与える打撃は計り知れない。

6月上旬での合意の確率が最も大きいか

以上の4つのシナリオに敢えて確率を設定すると、第1のシナリオが25%、第2のシナリオが55%、第3のシナリオが15%、第4のシナリオが5%と考えたい。デフォルトが生じれば、金融市場全体の基盤である米国債の信頼性が大きく低下し、グローバルな金融危機の引き金となる可能性がある。またそれは、世界の景気後退の引き金ともなるだろう。

第1のシナリオでは、米国株価下落など金融市場の動揺のリスクは比較的軽微に留まるが、第2、第3のシナリオでは金融市場は動揺し、米国経済が景気後退に陥るきっかけとなる可能性がある。

現時点で可能性が最も高いのは、6月上旬に債務上限引き上げで合意がなされる第2のシナリオだ。その場合でも金融市場及び米国経済に与える打撃は比較的大きくなる。債務上限問題では、政治的闘争によって金融市場と経済が人質にとられている状況と言えるが、もはや無傷での解決は難しいのではないか。

図表 米国債務上限引き上げ・デフォルトを巡る4つのシナリオ

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