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財源問題で紛糾が続き先送り的要素を強める少子化対策:政府は「こども特例公債」を発行か

2023/05/24

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少子化対策予算倍増は2030年度前半に先送りか

6月の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の公表が近づく中、そこに盛り込まれる少子化対策の具体的な枠組みが次第に見えてきた。

対策の最大の柱は児童手当の拡充であるが、対象を現行の中学生から高校生にまで拡大し、新たに1万円支給することが検討されている。また、第3子以降については、3歳から小学生までの支給を月1万5千円から3万円に倍増することも検討されている。

岸田首相は少子化対策の支出を倍増させると公言してきたが、他方でその基準(ベース)となる支出の定義を明らかにしてこなかった。これについては、4月に発足したこども家庭庁の2023年度予算4兆8,100億円(一般・特別)が基準となる可能性が高まっている。その場合、予算は年間5兆円程度増加し、その分だけ新たな財源が必要となる。

しかし、報道によれば、予算が倍増されるのは2030年度前半が目指されるという。倍増時期が事実上先送りされるのは、財源確保の議論が紛糾していることへの対応だろう。

さらに2024年度から2026年度を「集中取り組み期間」と位置づけ、その間の追加の少子化対策を年間3兆円規模とする方向だ。つまり、少子化対策予算を倍増するまでにワンクッション置く考えだ。

「集中取り組み期間」とは前向き感のある言葉であるが、その実態は財源確保の困難に直面していることを受けて、倍増の時期を先送りすることを覆い隠す狙いがあるようにも見える。

支出を先行させ財源確保を先送りする「子ども特例公債」

さらに事実上の先送りの一環とも見えるのは、政府が「子ども特例公債」の発行を検討していることだ。これは特定財源で償還される「つなぎ国債」だ。子ども関連予算を一元的に管理する目的で創設される特別会計「こども金庫」(仮称)で発行、管理されるという。

「つなぎ国債」は、歳出と歳入の時間的ずれを補う目的で発行される特別な国債であり、将来の財源確保手段を決めたうえで発行される。そのため、財源が決まらないままに見切り発車することにはならないが、新たな少子化対策の実施を先行させ、増税、社会保険料引き上げ、歳出削減など不人気な財源確保の時期を先送りすることにはなる。そのため、「子ども特例公債」発行には、財源確保に対する各方面からの反発を和らげる狙いがあるだろう。

歳出削減で賄う余地は小さい

他方で、最大の焦点である財源の議論は紛糾したままだ。岸田政権は、増税実施を明確に否定しており、残された手段は社会保険料の活用と歳出削減だ。

23日に鈴木財務大臣は、児童手当の給付を高校生(18歳)まで拡充する場合には、扶養控除を見直すべきと述べている。それを見直さないまま児童手当の給付を拡充すると、16歳から18歳の子供がいる家庭では、児童手当と税負担の軽減となる扶養者控除の双方を享受することになり、不公平感も強まるからだ。

これは歳出削減策の一種と捉えることもできる。少子化対策の実施を機に、少子化対策、あるいはそれ以外の社会保障制度について、公平性などの観点から、再度、支出を見直すべきだろう。

ただし、歳出削減で少子化対策の財源を賄うことは難しい。岸田政権は、まずは歳出削減で財源を確保する考えを強調しているが、それはその他の手段による財源確保を正当化するためのポーズの側面が強いだろう。歳出削減を少子化対策の財源の中心とするには、相当に強い政治的なリーダーシップが必要となる。

子育て支援を誰が負担するのが適切か

岸田政権は、社会保険料の活用を少子化対策の主な財源とする考えである。しかし、社会保険制度は負担者と(潜在的)受給者とが一致していることが前提なのではないか。少子化対策の財源として既存の社会保険料を流用、あるいは新たな社会保険料を徴収する場合には、子どもがいない人も含めた労働者全体が負担者、子育て世代が受給者と、両者の間に大きな乖離が生じる。これは、社会保険制度の本来の趣旨を踏まえれば問題だろう。社会保険料は、徴収した本来の目的に支出しなければならない。

また、既存の社会保険料を流用する場合、その分、より国費を投入する必要がでてくる。国債発行で賄わないという方針に反して、実際には新規国債の発行で賄う構図になってしまうことも大きな問題だ。

さらに、財源確保の手段を決める際には、当然ではあるが、「誰が負担するのが適切なのか」という議論に基づくべきだ。社会保険料で賄う場合には、現役世代と企業の負担となる。他方で、退職した世代には負担は生じない。所得増税で賄う場合には、現役世代の負担となる。そして消費増税で賄う場合には、退職した世代も含めた国民全体の負担となる。

財源の問題は、出生率引き上げ、子育てを誰の負担で支援するのが最も適切なのか、という観点から議論すべきだ。仮に、国民全体、社会全体で子育てを支援するという考えが広く支持されるのであれば、消費増税による財源確保も選択肢から外すべきではないだろう。

(参考資料)
「高校生に月1万円」、2023年5月24日、日本経済新聞
「政府が「こども特例公債」発行へ、少子化対策の財源確保までー報道」、2023年5月23日、ブルームバーグ

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