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1ドル140円が目前に:日銀の政策修正観測の後退で円安が進む。中期的には行き過ぎた円安の修正局面

2023/05/25

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昨年は「ドル高」、今は「円安」

為替市場で円安傾向が強まっている。25日の東京市場では1ドル139円70銭程度と約半年ぶりの円安水準となり、1ドル140円の節目が目前に迫った。昨年10月には1ドル150円超まで円安が進んだが、その後は円高傾向に転じ、今年1月には127円台まで円高が進んだ。現状はその間に進んだ円高の半分程度まで、円安方向に振れ戻されたことになる。この円安傾向こそが、足元での急速な株高の最大の要因だ。

昨年10月に大幅に進んだ円安ドル高と、足元の円安とでは様相が異なる。昨年は「ドル高」の性格が強かったのに対して、現在は「円安」の性格が強い。ユーロ円は1ユーロ150円程度と、2008年のリーマンショック時以来の円安水準にある。

昨年の急速な円安ドル高は、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げとそれによる日米金利差拡大によるところが大きかった。対円だけでなく、多くの通貨に対してドル高が進み、まさに「ドル独歩高」の様相だったのである。

他方足もとは、ドル高よりも円安の性格が強い。3月末以降、円は対ドルで6%程度下落しているが、ユーロは同時期に対ドルで1%程度しか下落していない。足もとで強まる円安ドル高は、日本側の要因によるところが大きいのである。それは、日本銀行の政策修正観測の後退だ。

7月にかけて140円台半ばから後半まで円安が進む余地も

昨年12月に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅の拡大を突如決めたことをきっかけに、今年4月の新総裁のもとで政策の修正が大きく進むとの観測が強まり、それが円高を加速させた。

しかし、4月に就任した植田総裁が、予想外に政策修正に慎重な姿勢を見せたことで、早期の政策修正観測は一気に後退している。その結果、日米金利差拡大観測が再び強まる中、円安ドル高傾向が為替市場で強まったのである。

金融市場では6月あるいは7月に、YCC見直しを中心に政策修正が行われるとの観測がなお燻ぶっている。それが実施される可能性は高くないと思われるが、実際に政策修正が見送られれば、政策修正観測がさらに後退していく中、円安傾向はもう一段後押しされることになるだろう。

この点から7月にかけてはなお円安ドル高の流れが続く、とみておきたい。昨年10月の1ドル150円の水準を超えて円安が進む可能性は高くないと考えられるが、140円台半ばから後半まで円安が進む余地があるのではないか。

向う数年で1ドル109円程度まで行き過ぎた円安の修正が進む可能性

他方で、年後半に入り、急速な金融引き締めと銀行の貸出抑制の影響から、企業部門を中心に米国経済が悪化、金融不安が再燃し、FRBの早期利下げ観測が強まれば、リスク回避傾向と日米金利差縮小観測が重なる形で、円が急速に巻き戻される可能性がある。

米国経済が本格的な景気後退に陥り、金融不安が顕著に広がる場合には、円は年末までに1ドル120円台まで巻き戻される、と見ておきたい。

10年前に日本銀行が異例の金融緩和を導入したことをきっかけに円安が進み、行き過ぎた円安水準が維持されてきた、と考えられる。実質実効円レートは、当時から10年移動平均値を一貫して下回る円安水準にある。

植田総裁のもとで、金融政策の修正が進めば、行き過ぎた円安も修正されていくと考えられる。この10年移動平均値を円の均衡水準と考えれば、ドル円レートの均衡水準は1ドル109円程度、となる計算だ(図表)。

植田総裁は早期の政策修正には慎重であるが、2024年後半以降には、副作用を軽減することを狙った「金融緩和の枠組み見直し」を相当進めていくことが予想される。その結果、向う数年を視野に入れれば、1ドル109円程度まで円高が進み、異例の金融緩和が作り出した行き過ぎた円安が解消されていく、とみておきたい。

図表 実質実効円レート

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