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米債務上限引き上げで基本合意:デフォルト回避に向け大きく前進

2023/05/29

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金融市場はデフォルト回避を好感

民主党のバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長は、米国時間27日(土)に債務上限引き上げで基本合意(an agreement in principle)に達した、と複数の米メディアが一斉に報じた。両者は27日に電話で3回目となるトップ会談を行った。約90分の電話会談後に、こうした報道がなされた。関係者によると、双方の交渉担当者が現在、最終的な法案文言の作成に取り組んでいるという。

報道によれば、2年間の債務上限引き上げで合意されたという。これは、債務上限問題を来年11月の大統領選挙の争点にはしない、という意味がある。

これはトップ間での合意であるが、両党の議員の間に不満が燻ぶる場合には、議会(上下両院)での法案可決までになお手間取る可能性があり、この合意ですべて問題が解決したとは言えない。

それでも、6月5日とされる米国政府のデフォルト回避の期限、いわゆる「Xデー」前に合意が得られる可能性は高まったと考えられる。これを受けて金融市場ではリスク回避の動きが巻き戻され、29日の東京市場では円安株高が相応に進む可能性が高い。

来年大統領選挙への影響も配慮しバイデン政権が一定程度譲歩

具体的な合意内容はまだ明らかとなっていない。共和和党は4月に、向こう10年間で歳出を4兆8,000億ドル削減することと引き換えに、債務上限引き上げを認める法案を下院で可決している。この歳出削減は、環境対策や社会保障政策などバイデン政権の看板政策を狙い撃ちするものであったことから、バイデン政権はその受け入れを拒否し、歳出削減などの条件を付けずに債務上限を引き上げるよう、共和党側に強く求めていた。

しかしその後、バイデン政権は10年間で1兆ドルの歳出削減を受け入れるとして、譲歩する姿勢を見せ始めた。バイデン政権下で2021年に実施したコロナ対応の大型経済対策が、現在の物価高騰の一因となったとの批判が国民の間に一定程度あることから、共和党が求める歳出削減案を全く受け入れない場合には、来年の大統領選挙に悪影響が及ぶことをバイデン政権が懸念し、譲歩した可能性が考えられる。

看板政策の環境対策でも歳出見直しか

ロイター通信などによると、両者は国防費を除く多くの政府プログラムへの支出に上限を設けることで合意したという。共和党が求める低所得者向け給付制度の就労条件の厳格化などでもバイデン政権が一定程度譲歩した可能性がある。内国歳入庁(IRS)の予算増額も見直されたとみられる。2022年8月に成立させたインフレ抑制法では、10年間で800億ドルのIRSの予算増額が盛り込まれていた。

マッカーシー下院議長は、エネルギープロジェクトの建設を迅速化するために連邦政府の許可プロセスを緩和する合意がまだ作成中であると述べている。インフレ抑制法は再生可能エネルギー生産の拡大を求めており、それには、早期に新たな送電線網を拡充することが必要であるが、共和党はその見直しを求めている。

デフォルト回避でも米国のリーダーシップは大きく傷ついた

6月5日期限前ぎりぎりで、債務上限引き上げの法案は成立し、デフォルトは回避される可能性が高まってきた。大手格付機関による米国債格下げの可能性も低下している。

しかし、米国内の政治闘争によって、米国だけでなく世界の金融市場をリスクに晒したことは、他国からの強い批判を呼び、米国の世界のリーダーシップを損ねることになった。米国に対立する国々からは、「米国型民主主義」の弱点が露呈されたとの批判が高まり、グローバルサウスを先進国陣営に取り込む米国の試みにも逆風となるだろう。

こうした点から、デフォルトは回避されても、債務上限引き上げを巡る政治的混乱は、米国に大きな傷跡を残してしまったと言えるだろう。

(参考資料)
"Strike Deal 'in Principle' to Raise U.S. Debt Ceiling", Wall Street Journal, May 27, 2023
「米債務上限引き上げで基本合意 バイデン氏、共和党双方が歩み寄る」、2023年5月28日、毎日新聞速報ニュース
「米債務上限引き上げ、大統領と下院議長が合意 米報道」、2023年5月28日、日本経済新聞電子版

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