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米国デフォルト回避と歳出削減の景気抑制効果:物価高対策で過度の金融引き締めのリスクを軽減も

2023/05/29

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デフォルトは回避へ

27日に民主党のバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長は、債務上限の適用停止で基本合意に至った。議会で法案が可決されるまでは、なお最終的な問題解決ではなく、予断を許さないものの、米国政府が国債の利払い、償還ができなくなり、史上初めてデフォルト(債務不履行)に陥る可能性は、かなり低下したと言えるだろう。

債務上限の適用停止は2025年1月までと合意された。これによって、来年の大統領選挙で債務問題が争点となることはなくなった。

合意では、「裁量的支出」に上限が設定される。それにより2025年度(2024年10月~2025年9月)の予算上限は、国防関連では前年度比+1.0%、国防関連以外では+1.0%と、物価上昇率をかなり下回る増加率に留まることから、先々の景気に抑制的に働くことが見込まれる。

低所得者向け公的食料費補助では、適用年齢の上限引き上げ(49歳→54歳)が行われる。低所得者向け現金給付制度でも、勤労要件の厳格化を通じて、歳出が抑えられる。

エネルギープロジェクトについては、連邦当局の審査を義務付ける国家環境政策法が修正され、一定程度の歳出抑制がなされるとみられる。

昨年8月に成立したインフレ抑制法に含まれる内国歳入庁(IRS)の予算増加のうち、200億ドルの使途が見直される。利用者サービス向上と連邦税の不正対策に充てられる予算が、その他の支出(防衛関連以外)に回される。

歳出削減は米国の景気後退入りの確率を高める可能性

最終的にどの程度の歳出削減が実施されるのかはまだ明らかではない。共和党は4月に、向こう10年間で歳出を4兆8,000億ドル削減することと引き換えに、債務上限引き上げを認める法案を下院で可決している。バイデン政権は1兆ドルの歳出削減を受け入れる考えを事前に示していた。

両者がどの程度の歳出削減で最終的に合意したのかは明らかではないが、ここでは、10年間で2兆ドルの歳出削減がなされるケースを考えてみよう。この場合、1年間の歳出削減規模は2,000億ドルである。これは年間の名目GDPの0.8%程度に相当する。

2023年10月から始まる2024年度予算からこの歳出削減が実施されるとすれば、そこから1年間の成長率を1%近く押し下げる可能性が考えられるところだ。今年後半、つまり2023年7-9月期から米国経済は、比較的軽微な景気後退に陥るとの見方は少なくない。

仮にデフォルトが生じる、あるいは債務上限問題がもっとこじれて金融市場が混乱していれば、米国経済はそれをきっかけに一気に景気後退に陥る可能性があった。そうした事態は回避される方向であるが、バイデン政権が受け入れる歳出削減によって、米国経済が景気後退に陥る確率がさらに高まるだろう。あるいはより本格的な景気後退に陥る確率が高まる可能性がある。

基本合意を受けても、週明けのドルの上昇余地が比較的限られた背景には、歳出削減による経済の悪化が懸念された可能性も考えられる。

歳出削減には物価高対策で金融政策の過度の負担を緩和する面も

他方、米国は引き続き物価高騰に見舞われている。現時点では、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めによって物価の安定回復が図られている状況だ。しかし、バイデン政権の積極財政が物価高騰の一因であるとすれば、緊縮的な財政政策によって、物価安定回復に向けた金融政策の負担を一部引き受けることは、正しいポリシーミックスなのではないか。

今回の合意は、仮に歳出削減によって米国経済が後退に陥る確率を高めることになるとしても、財政政策と金融政策の望ましい米国でのポリシーミックスに導くきっかけになったというプラスの面があることも考えられる。金融引き締めだけに頼る物価高対策には、行き過ぎた金融引き締めが経済を抑制するだけでなく、金融市場の大きな調整を引き起こし、金融不安の引き金となってしまうリスクがあるのではないか。

(参考資料)
「25年1月まで上限適用停止、国防費以外の歳出抑制―米債務合意の要点」、2023年5月29日、ブルームバーグ

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