フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 骨太の方針の骨子案:最大の焦点は少子化対策の財源問題

骨太の方針の骨子案:最大の焦点は少子化対策の財源問題

2023/05/30

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

政府が「骨太の方針」の骨子案を示す

政府は5月26日の経済財政諮問会議で、今年の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の骨子案を示した。6月16日頃をめどに、閣議決定されることが予想される。

骨子案は全5章、計18項目で構成されている。岸田政権の看板政策である「新しい資本主義」の加速については、「構造的な賃上げの実現」、「人への投資の強化」、「官民連携による国内投資拡大」、「サプライチェーン(供給網)強靭化」などが盛り込まれている。経済の潜在力を高め、持続的な実質賃金の上昇につながる施策としては、「構造的な賃上げの実現」、「人への投資の強化」が特に重要であり、それら施策の具体的な肉付けが進んでいる。

昨年の骨太の方針では、防衛費増額が大きな焦点となったが、今年の骨太の方針で最も注目されるのが、少子化対策である。

社会保険料で少子化対策を賄うことの問題

岸田政権は当初、「異次元の少子化対策」を掲げ、関連予算を倍増する方針を示していた。その場合、小さく見積もっても子ども家庭庁の年間予算額4.8兆円の倍増、つまり5兆円規模の増加となるが、実際には2024年度以降の「集中取り組み期間」では年間3兆円を増額する、と事実上スケールダウンさせたのである。それは財源確保の難しさに直面したからだろう。

この年間3兆円のうち、税収などで確保する予算から0.9兆円、医療保険料などの上乗せ徴収で0.9~1.0兆円、社会保障支出の削減で1.1兆円程度を賄う考え、とされる。しかし、この財源確保の考え方には問題が残る。

このうち、税収などで確保する予算から0.9兆円は、単なる税金の使途の付け替えに終わり、結局、政府が否定している新規の国債発行増額につながるのではないか。そうであれば、恒久的な財源確保手段とは言えない。

財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は29日に、政府が目指す少子化対策の強化に必要な財源について「将来世代への先送りは本末転倒だ」として、赤字国債で賄うことは認められないという姿勢を明確にた。

また、政府は増税を財源とすることをせず、その代わりに医療保険料の上乗せで賄う方針を固めた。しかし、社会保険制度はそれぞれ目的に応じて(潜在的な)受給者が保険料を支払うことで基本的には成り立っている。将来の医療サービスの受給のために支払う保険料が、全く目的が異なる少子化対策に利用されることには問題があるだろう。政府は、現役世代だけに負担を負わせるとの批判に応えて、高齢者医療保険料も少子化対策の財源に利用する方針だ。全世代で子育てを支えるという理念を反映させる考えでもある。ただし実際には高齢者の負担は小さく、現役世代と企業が多くの負担を担う形となるのではないか。

少子化対策の財源の一部を社会保険料から賄うのは、増税に対する国民の反発をかわす狙いが大きいだろう。国民にとっては可処分所得を減らす負担である点ではどちらも変わらない。社会保険料を本来の目的と違う支出に流用するのであれば、使途を問わない税金で逃げずに少子化対策を賄う方が、透明性が高い(コラム「財源問題で紛糾が続き先送り的要素を強める少子化対策:政府は「こども特例公債」を発行か」、2023年5月24日)。

財政審議会も、「財源を検討する際には、税も選択肢から排除すべきではない」という意見が委員の間から出たことを明らかにしている。

社会保障の歳出改革の難しさ

他方、社会保障費の歳出改革で少子化対策の財源を賄う議論については、なお具体策が固まっていない。少子化対策の財源とするかどうかは別として、社会保障費の歳出改革を通じて、社会保障制度の財政を改善し、制度の持続性と信頼性の向上に努める試みは常に必要だ。

経済財政諮問会議では、社会保障費の歳出改革で、介護保険での介護サービス利用料の2割負担対象者の拡大を求める意見が出た。それ以外にも、高所得者の介護保険料引き上げ、医療保険では、診療報酬(薬価)引き下げ、後期高齢者2割自己負担の対象拡大、高額金融資産保有者の医療保険料引き上げ、なども歳出改革の候補となる。

しかし、社会保障の歳出改革で少子化対策の財源を1.1兆円程度賄う賄うことは簡単ではない。過去の歳出改革ではせいぜい年間1,000億円~1,500億円賄うことができた程度である。1.1兆円の歳出削減という案も、1年間の額ではなく数年間の合計金額として想定されているように見える。その場合、年間3兆円の少子化対策を、医療保険料の上乗せや歳出改革で賄うことはできず、結局は国債発行の増額でなし崩し的に賄われることになるのではないか。

中身、規模、財源を三位一体で議論を進めることが重要

財源確保の難しさを踏まえれば、児童手当の大幅拡充、そして少子化対策の全体の規模について、再度見直す必要があるのではないか。児童手当の大幅拡充がどの程度出生率の上昇につながるのか、冷静な分析が必要だ。

少子化対策は、その中身、規模、財源を三位一体で同時に議論しつつ、国民にとって最適な組み合わせを探ることが必要だ。規模先にありきの決定となり、最終的に財源の議論が大きく紛糾してしまった防衛費増額議論と同じ轍を踏まないことが重要だ。

(参考資料)
「社保歳出改革 数字が先行」、2023年5月27日、日本経済新聞

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ