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日本銀行の2022年度決算:長期金利上昇で国債含み損拡大と売却損の発生

2023/05/30

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2022年度の当期剰余金、国庫納付金はともに過去最高額

日本銀行は29日に2022年度の決算報告書などを発表した。2023年3月までの2022年度は、円安の大幅進行、2022年12月のイールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅拡大による長期金利上昇(長期国債の価格低下)など、日本銀行の財務を取り巻く環境が大きく変化した1年だった。

2022年度の当期剰余金は前年度比7,629億円増加の2兆875億円と、1998年度の新日本銀行法施行以来最高額となった。ETFの運用益や国債利息収入が増加したことなどが背景だ。

この当期剰余金から、法定準備金積立と配当金を除いた部分が、国庫納付金となり、政府の歳入となる。この国庫納付金は1兆9,831億円と4年連続で1兆円を超え、過去最高となった。

前年度からの利益増加に貢献したのは、国債利息収入などの経常収入であり、前年度比約3,600億円増加した。国債保有残高の増加や新規買い入れ国債のクーポンの上昇が背景だ。また、分配金などETFの運用益が前年度比約2,600億円増加した。さらに、年度上期を中心に円安が進んだことで、保有外貨の円換算額増加が270億円の増益要因となった。

保有国債に1,571億円の評価損

このように好決算のもとで、潜在的なリスクが高まっている面もある。日本銀行は国債を時価ではなく償却原価法で処理しているため、長期金利上昇(長期国債の価格低下)が損益に影響を与えることはない。しかし、評価損は発生する。YCCの変動幅拡大による長期金利上昇によって、2022年度には1,571億円の評価損が発生した。国債での評価損発生は、2006年度以来17年ぶりのことである。

含み損を抱えた国債を大量に売却すれば、それは経常赤字、債務超過などを招き、国庫納付金の減少や公的資金の注入などといった大きな政治問題に発展する可能性がある。実際には、日本銀行は含み損を抱えた国債を満期まで持ち切る可能性が高いことから、そうした事態が発生する可能性は低い。

しかし巨額の含み損は、日本銀行の財務の健全性に対する信認を低下させ、それが通貨、物価の不安定化をもたらすリスクもあるため、看過できない面がある。

流動性対策で国債の売却損も

他方で、含み損を抱えた国債をわずかな金額ではあるが売却している。長期国債関係損益では、228億円の売却損が計上された。売却損は年度上期が24億円、下期が204億円である。

日本銀行は、「国債補完供給の減額措置の実行に伴う売却損を計上」と説明している。国債補完供給は、品不足となった国債を日本銀行が金融機関に貸し出すことで、国債の流動性を維持することを図る制度だ。そして「減額措置」とは、金融機関が貸し出された国債の一部を現金で買い取ることを認める制度を意味するとみられる。極度の品不足となった銘柄について、日本銀行が例外的に金融機関に売却する流動性対策だろう。下期に売却損が増加したのは、昨年12月のYCCの変動幅拡大後に、日本銀行が金利上昇を抑えるために国債の買い入れ額を拡大し、国債の品不足感が深刻になったため、と考えられる。

ETFの含み益拡大も将来的には日本銀行の財務の大きなリスク

国債に巨額の含み損が発生したのとは対照的に、含み益が拡大したのがETFである。2023年3月末で日本銀行が保有するETFの簿価は37兆1,160億円、時価は53兆1,517億円、両者の差である含み益が16兆356億円となった。国債の含み損の102倍の規模に達する。前年度の含み益から1兆3,502億円増加した。これは、株価上昇によるところが大きい。2023年度に入り、株価上昇によってETFの含み益はさらに拡大している。

しかし、将来的には、株価が大きく下がる局面で日本銀行が保有するETFに大きな含み損が発生する可能性がある。その際には、日本銀行は引き当てを強いられ、その分、経常利益、当期剰余金は大幅な赤字となり、日本銀行が債務超過となる可能性も出てくる。

日本銀行が保有するETFの損益分岐点は、日経平均株価で2万円程度と推定される。日経平均がETFの損益分岐点である2万円からちょうど30%下落し、1万4千円以下まで下落すると、日本銀行が債務超過に陥る計算となる(コラム「日銀新体制の課題⑦:ETF購入策に出口はあるか②:日経平均1万4千円で債務超過に」、2023年2月17日)。

日本銀行による国債、ETFの積極的な買い入れ、いわゆるバランスシート政策は、環境次第では日本銀行の収益を拡大させる。しかし、ひとたび環境が悪化すれば、巨額の損失を生じさせ、日本銀行の財務の健全性を大きく損ねてしまう。それは、通貨の信認低下から経済、物価、金融市場を不安定化させる。この点から、日本銀行には、買い入れた資産の削減を進めていくことが求められる。

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