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IPEF閣僚会合がサプライチェーン協定で合意:参加国間で「同床異夢」の側面も

2023/06/01

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IPEFが「サプライチェーンの強化」で合意

5月27日にインド太平洋経済枠組み(IPEF)閣僚会合がデトロイトで開催された。IPEFはアジア地域で影響力を強める中国に対抗し、米国主導で発足した経済連携だ。米国のほか、日本、インドなど14か国が参加している。

IPEFは、①貿易、②サプライチェーンの強化、③エネルギー安全保障を含むクリーン経済、④脱汚職など公正な経済、の4つの分野での協定締結を目指している。このうち、サプライチェーン協定について、先行して合意に達した。米国は議長国を務める今年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、全4分野での合意を実現したい考えだ。

新型コロナウイルスの感染拡大では、医療品の不足が深刻化した。またロシアのウクライナ侵略に伴い重要鉱物の調達が困難になった。こうした最近の教訓を踏まえ、感染症や紛争などにより半導体や重要鉱物、医薬品などの重要物資の供給が途絶えた際、参加国同士で融通しあうなどのサプライチェーンの強化に関する協定が今回合意されたのである。

参加国での「同床異夢」とグローバルサウスの取り込み

日米にとっては、中国に依存する重要物資の供給を停止されることで、経済的な打撃を受け、それが安全保障面でも弱点となってしまうことを回避するためという狙いもある。つまり経済安全保障上の観点から、中国に依存しない形で、参加国内で重要物資を融通する体制を構築することを図る。あるいは、中国に重要物資を提供しないように中国を封じ込める、という狙いもあるだろう。

他方、新興国にとっては、そうした経済安全保障の観点ではなく、純粋に経済的な観点から、感染症や紛争などが起きても、重要な物資を確保したいという意向が強い。つまり、IPEF参加国の中でも、今回のサプライチェーン協定の合意には、先進国と新興国とでは目的、狙いが異なる。つまり、「同床異夢」の側面があるだろう。

他方、先進国としては、新興国に経済的なメリットを提供することで、先進国側に引き寄せていく、グローバルサウスの取り込み、という狙いもこのIPEFにはある。ただし、関税の引き下げを含まず、米国市場へのアクセス拡大を新興国に提供しないこのIPEFに、新興国がどの程度魅力を感じるかは不透明だ。

今回の多国間協定としては史上初めて、サプライチェーンの強化に関する協定の合意となった点が画期的であることを、日米は強調している。ただしそれは貿易のブロック化の性格も帯びている。地域経済連携を拡大させることで世界全体の自由貿易化を推進するという理念に照らせば、一種の後退でもあるのではないか。

今回の閣僚会合では、日本とシンガポールが主導し、水素技術で協力する「域内水素イニシアチブ」を立ち上げることでも合意した。これは、エネルギー安全保障を含むクリーン経済の協定に含まれることになるだろう。

日米は次世代半導体の開発でも連携強化

サプライチェーンの強化に関連して、西村経産相はデトロイトでレモンド商務長官と会談した。そこでは、次世代半導体開発の行程表策定に向けて連携することで一致した。この点について、公表された共同声明では、以下のように述べられている。

「日本の経済産業省と米国の商務省は、より強靭な半導体エコシステムの構築に向けて、強力に連携していくことを確認した。次世代半導体の開発に向けて、両省は、日米共同タスクフォースのもと、技術開発及び人材育成協力に関するロードマップ策定に向けて一層連携すべく、米国で設立予定の国立半導体技術センター(NSTC)と日本の技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)間の協力を促進することを意図する。さらに、経済産業省と商務省は、両国における支援措置とインセンティブについて引き続き情報交換し、半導体サプライチェーンの強靭性を損なう生産の地理的集中を特定し、解決するために引き続き協力していく」

半導体のサプライチェーンの強化については、IPEFに加えて、日米間では一層の連携強化が図られる。さらに次世代半導体を量産するために日本が昨年設立した技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)と、米国が設立する予定の国立半導体技術センター(NSTC)の協力を促し、技術開発や人材育成で連携することも含まれる。

現時点での半導体の確保というサプライチェーンの観点に留まらず、先端半導体の分野で中国などとの競争に勝ち抜いていくという、将来にわたる強い連携の姿勢が、両国間で確認された。

(参考資料)
(仮訳)第2回 日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)閣僚会合 共同声明)」、2023年5月26日、経済産業省
「IPEF、供給網協定で合意 脱中国依存へ米主導の連携始動」、2023年5月28日 10:35、 日本経済新聞電子版
「重要鉱物・水素の供給網づくりで合意へ IPEF閣僚会合」、 2023年5月28日 00:52、 日本経済新聞電子版

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