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米下院が債務上限法案を可決し上院に送付:歳出抑制は米国景気後退リスクを高めるか

2023/06/01

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米国債務上限問題はXデー直前の解決へ

米国時間の5月31日夜、米国下院は債務上限法案(The Fiscal Responsibility Act of 2023)を可決した。同法案は上院に送付される。両党の一部議員から法案可決に反対の意見が出ることなどで、上院での可決までにはなお紆余曲折が予想されるものの、6月5日とされる米国政府のデフォルト回避の期限(Xデー)までに、同法案が可決される可能性は高まったと考えられる。

それでも、デフォルト回避は期限ぎりぎりまでもつれ込むことになった。仮にXデーが、米財務省が当初指摘していた6月1日であったなら、法案可決がそれに間に合わなかった可能性もあるだろう。その場合には、財務省は国債の償還、利払いを優先して他の歳出を先送りするなどの特別な措置を講じる必要が生じ、社会に混乱をもたらした可能性があった。またその際には、大手格付機関が米国債の格下げを検討した可能性もある。

いずれにしても、デフォルトは回避されても、世界の金融市場をリスクに晒した混乱は、米国の威信、リーダーシップを傷つけたと言える。

歳出抑制額は10年間で1兆3,318億ドル。両党議員に不満が残る

議会予算局(CBO)は5月30日に、債務上限法の適用停止に関わるバイデン政権とマッカーシー下院議長の合意が議会で可決された場合の今後の財政収支に与える影響の試算値を公表した。それによると、2024年度から2033年度の10年間に、裁量的歳出は1兆3,318億ドル抑制される。

共和党は4月に、向こう10年間で歳出を4兆8,000億ドル削減することと引き換えに、債務上限引き上げを認める法案を下院で可決した。これに対してバイデン政権は、歳出削減などの条件を付けずに、債務上限を引き上げることを共和党に求めた。

しかしその後、バイデン政権は1兆ドルの歳出削減を受け入れる考えを示したのである。この点から、バイデン政権が譲歩したことで、デフォルト回避に近づくことができた、ということもできる。また、最終的に合意された歳出削減額が、1兆ドルではなく1兆3,318億ドルになったことは、バイデン政権側が最終的にもう一段の譲歩をしたことを意味する。

他方、共和党側では、当初の4兆8,000億ドルの歳出抑制額を1兆3,318億ドルと3分の1以下にまで縮小したことは、バイデン政権にかなり譲歩したことを意味する。

民主党議員、共和党議員双方に、相手側に譲歩し過ぎたという不満が残り、これが円滑な法案可決の障害となっているだろう。

2023年10月から年間成長率は0.33%押し下げられる計算

10年間で1兆3,318億ドルの裁量的歳出抑制の内訳は明らかではないが、仮に投資的支出が全体の3分の1、非投資的支出が全体の3分の2とし、所得弾性値をそれぞれ0.9、0.5と仮定しよう。この場合、裁量的歳出抑制のGDP押し下げ額は8,434億ドルとなる。これは年間名目GDPの3.31%となる。2024年度、つまり2023年10月から裁量的歳出抑制が始められると、初年度の成長率は0.33%押し下げられる計算だ。

これだけで米国経済が一気に悪化する訳ではないが、大幅利上げ、銀行の貸出抑制によって強い逆風を受けている米国経済が、今年後半から来年初めにかけて景気後退に陥る確率を高めることに寄与するだろう。

物価高騰下で金融面でのリスクを軽減させる効果も

他方、米国は引き続き物価高騰に見舞われている。現時点では、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めによって物価の安定回復が図られている状況だ。しかし、バイデン政権の積極財政が物価高騰の一因であるとすれば、緊縮的な財政政策によって、物価安定回復に向けた金融政策の負担を一部引き受けることは、正しいポリシーミックスとも言えるのではないか。

今回の合意が、仮に歳出抑制を通じて米国経済が後退に陥る確率を高めることになるとしても、財政政策と金融政策の望ましい米国でのポリシーミックスに導き、金融面でのリスクを軽減するというプラスの面があるかもしれない。

金融引き締めだけに頼る物価高対策には、行き過ぎた金融引き締めが経済を抑制するだけでなく、金融市場の大きな調整を引き起こし、金融不安の引き金となってしまうリスクがあるからだ(コラム「米国デフォルト回避と歳出削減の景気抑制効果:物価高対策で過度の金融引き締めのリスクを軽減も」、2023年5月29日)。

(参考資料)
"CBO's Estimate of the Budgetary Effects of H.R. 3746, the Fiscal Responsibility Act of 2023", May 30,2023

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