フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米国デフォルト回避と5月分雇用統計:6月のFRB利上げは見送りか

米国デフォルト回避と5月分雇用統計:6月のFRB利上げは見送りか

2023/06/05

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

デフォルト回避と雇用統計で米国株は大幅上昇

米国では、5月31日の下院に続き、6月1日には上院が債務上限法の適用を2025年1月まで停止する「財政責任法案」を賛成多数で可決した。これによって、米国政府が史上初めてとなるデフォルト(債務不履行)は回避されることがほぼ確実となった。国債の格下げ懸念はしばらく残るだろうが、格下げの可能性も低下したと考えられる。

これを受けて金融市場の関心は、再び米国経済と米連邦準備制度理事会(FRB)に注がれる。6月2日に発表された米5月雇用統計では、雇用者数は事前予想を上回り、雇用の堅調を裏付けた。他方で失業率は大きく上昇し、賃金上昇率が低下を続けたことから、6月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げが見送られるとの金融市場のコンセンサスは概ね維持されたとみられる。

このデフォルト回避と5月分雇用統計を受けて、2日のダウ工業株30種平均は、昨年11月以来となる前日比701ドルの大幅高となり、約1か月ぶりの高値に達した。

雇用統計はまちまちの内容ながらも物価上昇圧力低下を示唆

労働省が2日に発表した5月分雇用統計では、非農業部門雇用者数は33万9,000人増と、市場予想の約19万人増を大幅に上回った。労働市場の堅調ぶりが改めて確認された形だ。他方で、前月に53年ぶりとなる3.4%にまで低下した失業率は、5月には3.7%と予想外の大幅上昇となった。また時間当たり賃金は、前月比+0.3%と前月の同+0.4%から鈍化し、前年同月比は+4.4%とやはり前月の同+4.3%を下回った。

労働参加率(生産年齢人口に占める労働力人口の割合)は5月に62.6%と、コロナ問題が広がる前の2020年2月の63.3%を依然下回っており、これが労働需給のひっ迫の一因をなしている。しかし、労働需給の緩やかな緩和を映して賃金上昇率も低下方向にある。この点を踏まえると、物価上昇率が低下方向を辿っていることは疑いがないだろう。

6月には利上げ見送りの公算も7月に再開される可能性が残る

5月のFOMCでは、6月13、14日に開かれる次回FOMCで、利上げを見送る可能性が示唆された。その後も、パウエル議長は6月の利上げ見送りを示唆する発言を繰り返している。

5月31日にはジェファーソンFRB理事が、「次の会合で利上げの見送りを決定しても、金利が今回のサイクルのピークに達したと解釈すべきではない」と発言した。さらに「次回会合で利上げを見送れば、さらなる政策引き締めの程度について決断を下す前により多くのデータを確認できるだろう」と述べている。バイデン大統領は5月に、ジェファーソンFRB理事を副議長に指名している。

今年のFOMCで投票権を持つフィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁も、次回会合での金利据え置きを支持している。同氏は5月31日に、「1回利上げを見送ってもよい」と述べた。

引き続き6月の利上げを支持する地区連銀総裁の意見もあるが、パウエル議長も含めて有力者が利上げ見送りを相次いで示唆したことで、金融市場でもそれが足元ではコンセンサスとなってきた。さらに、5月雇用統計を受けても、そのような見方は変わらず、雇用統計発表後に金融市場に織り込まれた6月の利上げ見送り確率は70%を超えている。

実際のところ、6月のFOMCでは、利上げは見送られ、昨年3月以来の連続かつ大幅な利上げ局面は節目を迎える可能性が高いと見ておきたい。

今年後半の金融市場は米景気後退、利下げを織り込む流れに

しかし、今後の経済情勢次第では、7月のFOMCで利上げが再開される可能性は残される。債務上限問題はほぼ解消されつつあるが、FRBの利上げの有無を巡って、向こう数か月の間は、金融市場が再び不安定になりやすいだろう。日本市場では、4月以来の一方的な円安、株高の流れも、より複雑な動きに転じていくのではないか。そして、米国景気の後退、FRBの利上げ打ち止めから利下げ観測が浮上すれば、円安株高や円高株安に反転するだろう。時期は不確実ながらも、今年後半はそうした動きが次第に明確になると見ておきたい(コラム「悪い円安論は再び高まるか」、2023年5月31日)。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn