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歯止めがかからないロシア通貨ルーブルの下落:加速する国外への資金流出と強まるスタグフレーションのリスク

2023/06/06

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原油価格下落による貿易・財政収支悪化がルーブル安に

ロシアの通貨ルーブルの下落基調が続いている。昨年6月には1ドル60ルーブル台であったが、足元では80ルーブル台で推移している。2023年2月のウクライナ戦争開始直後に、ルーブルは対ドルで一時50%近くも急落したが、その後、政策金利を20%にまで引き上げる中央銀行の大幅利上げ策や、輸出企業にドルを中心に外貨の強制両替を一時的に義務付けるといった措置をとったことでルーブルの価値は持ち直し、昨年6月には戦争開始直前よりも逆に40%程度高くなっていた。

ルーブルの価値が再び下落に転じるきっかけとなったのは、世界市場での原油価格の下落だ。それは、ロシアのエネルギー輸出収入を減少させ、さらにエネルギー輸出収入に歳入の4分の1以上を依存する連邦政府の財政赤字を拡大させた。対外収支の悪化とそれに連動した財政収支の悪化が、一貫した通貨の下落を生じさせている。

1~4月の連邦財政収支は約3兆4,000億ルーブルの赤字となった。政府による2023年の連邦財政赤字予想額2兆9,000億ルーブルを、4か月間で既に上回ってしまった。石油・ガス収入が前年同期比52%減少したことが財政悪化の主因である。

通貨防衛の利上げでスタグフレーションに

歯止めがかからないルーブル安を受けて、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は4月の金融政策決定会合後の声明で、現在7.5%で据え置いている政策金利の引き上げを検討する考えを示した。5月30日の決定会合でもロシア中央銀行は、ルーブル相場低迷がインフレリスクを高めており、金融政策の引き締めを余儀なくされる可能性がある、と警告した。

早ければ、6月9日の次回会合でも、ロシア中央銀行は政策金利の引き上げに踏み切る可能性がある。それでも、貿易、財政収支の悪化に根差す通貨安に、金融引き締めで歯止めをかけるのは難しいと考えられる。実際に大幅利上げが実施されれば、それによる景気悪化とルーブル安による物価上昇が併存するスタグフレーションの傾向が強まるだろう。

闇ルートを通じた海外への資金流出が加速

ルーブル安はロシアからの資金流出が後押ししている面もある。ロシア中央銀行によると、足元で国外の外貨預金口座へのルーブルの月間流出額は、ウクライナ戦争開始前の水準の5倍以上に達している。その結果、ロシアの家計部門が持つ外国銀行預金はウクライナ戦争以来2倍以上に増え、4月時点では5兆4,000億ルーブル(約9兆4,220億円)になったという。

ルーブル安による資産の目減りへの警戒だけでなく、ロシア経済の先行き不安がその背景にある。また、外国旅行や将来の国外移住に備えたり、国内にない商品やサービスを購入したりするために、外国に口座を開設する人もいる。徴兵を回避するためにロシア人男性たちが出国する際に、資金が海外に流出するという面もある。

ロシア人による海外での銀行口座の開設は、ジョージアやカザフスタン、アルメニアなどの近隣諸国で行われることが多いようだ。これらの国では依然として、ドル口座の開設やビザのクレジットカードの保有が可能だ。

ウクライナ戦争開始直後には、ルーブル安を回避するために、国外への資金移動が厳しく制限された。その後規制は緩和されたが、それでも、ロシア人が国内の外貨預金からドルやユーロを引き出すことは制限されている。外貨を手放したがらない銀行の姿勢も背景にある。そこで、闇ルートを通じて、国内の銀行ではなく海外の銀行で外貨預金の口座を持つ動きが広がっているのである。

こうした闇ルートも通じた海外への資金流出が、今後もルーブル安を後押しすることになるだろう。そのルーブル安が物価高や中央銀行による利上げによる国内経済の悪化をもたらせば、それがさらなる海外への資金流出につながる、という悪循環が生じる可能性があるだろう。

今後、世界経済の悪化傾向が強まり、それを映して原油市況が大きく下落すれば、貿易、財政収支の一段の悪化を通じてルーブル安傾向が急速に進み、ロシア国内でスタグフレーションの様相は一段と強まることになるだろう。

(参考資料)
"Russians Relearn Black-Market Tricks to Get Their Money Out(外貨「闇市場」使うロシア人、止まらぬ資本流出)", Wall Street Journal, June 1, 2023
「ロシア、インフレ抑制へ利上げの可能性=中銀」、2023年5月31日、ロイター通信ニュース
「ルーブル、下落基調続く、対ロ制裁で財政悪化に懸念(WorldPlus)」、2023年5月21日、日経ヴェリタス

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