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骨太方針の原案:政府の曖昧な財政健全化姿勢と少子化対策の再検討

2023/06/07

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歳出を平時に戻していく方針

政府は7日に骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)の原案を示す。各種報道によれば、新型コロナウイルス感染症への対応で膨らんだ歳出構造を「平時に戻していく」、と明示される。

コロナ問題で膨らんだ歳出を正常化していくことは重要だ。しかし、米国では、昨年夏に成立したインフレ抑制法、そして今月3日に成立した債務上限の一時適用を停止する法律とともに実施が決まった歳出削減策などに示されるように、再び財政緊縮策がとられている。多くの国で財政緊縮策がとられているのと比べると、コロナ問題で膨らんだ歳出の正常化で、日本は海外に後れを取っているように見える。

さらに、コロナ関連の支出は減少する一方で、防衛費増額、少子化対策の実施によって歳出の水準はほぼ恒久的に増加する面もある。また、物価高対策を中心とする景気対策が頻繁に講じられ、今後も実施される可能性が十分にある点を踏まえると、歳出全体を抑制し、財政赤字を縮小させる財政政策の正常化が図られる訳ではない。

形骸化する財政健全化目標

財政政策を巡る政府の曖昧な姿勢は、基礎的財政収支(プライマリーバランス:PB)の黒字化目標にも表れている。原案では、昨年度に続いて、従来から2025年度としていたPBの黒字化目標の達成年度を明示しなかった。昨年の骨太の方針では、「目標年度をあえて明示しないのは、従来と変わらないため」、と政府は説明していた。今年の骨太の方針でも、同様の説明をするのだろう。実際には、「PB目標が積極財政策の妨げとなっており、それを撤回すべき」と主張する自民党内保守派の意見に配慮したのだろう。

他方で、2025年度のPB黒字化目標を正式に修正しない限り、政府は財政健全化の姿勢を堅持していることを示す、との解釈が政府内で一般的になっているように見える。つまり、その目標を達成するか否かではなく、目標を堅持するか否かが重要となっている。PB黒字化目標は形骸化し、財政健全化の象徴的なものとなってしまった。

2025年度以降の中長期的な経済財政の枠組みについては、2024年度に改めて検証する方針が原案で示される。これは事実上の問題先送りである。2025年度のPB黒字化目標は達成可能でないことはもはや明らかである。防衛費増額、少子化対策の一部がなし崩し的に国債発行で賄われるようになる可能性が相応に高い点を踏まえれば、なおさらのことである。

来年度に問題を先送りするのではなく、できるだけ早期にPB黒字化目標を2025年度からより現実的な2030年度に修正したうえで、さらなる問題先送りをしないために、黒字化達成の具体策を示すべきではないか。これが、国民に対しても誠実な姿勢と言えるだろう。

政府は逃げずに、負担について国民としっかり向き合うべき

今回の骨太の方針の最大の注目点は、少子化対策である。その具体的な内容は既に1日の「こども未来戦略方針の素案」で示されている(コラム「こども未来戦略方針の素案:先送りされた少子化対策の財源議論」、2023年6月2日)。

他方で、自民党内からの様々な意見に配慮して、その財源議論は年末まで先送りされる。規模を先に決めたうえで、年末になって財源議論を本格的に始めたことから議論が紛糾した昨年の防衛費増額と同様の事態となることが懸念されるところだ。

少子化対策については、国民の間で好意的な意見が多いとみられるが、他方で、国民に対して、それには必ず負担(コスト)が伴うことを、政府は真摯に国民に説明すべきだ。増税・社会保険料の引き上げ、歳出抑制、国債発行のいずれも国民負担となる。

政府は、現役世代中心の社会保険料上乗せ額などは、児童手当拡充などの現役世代の所得増加をもたらすため、両者を相殺すれば国民負担は生じない、といった趣旨の説明をしていたように思われる。しかし、子どもがいない世帯、子育てが終わった世帯は児童手当拡充などの少子化対策のベネフィットを受けないことを踏まえれば、こうした議論は乱暴だろう。ベネフィットよりも負担が上回る世帯、個人が喜んで受け入れることができるような少子化対策とすべきだ。

国民に不人気な増税を避けるために、社会保険制度の本来の趣旨に反して、保険料の上乗せ徴収を行うのであれば、財源を増税で賄う方がより透明性が高いのではないか。政府は逃げずに、負担について国民としっかり向き合う姿勢が重要だ。

国民的議論を通じて少子化対策の規模、中身もなお柔軟に見直すべき

年末にかけて、そうした国民的議論を広げ、負担についての国民の理解が得られないようであれば、2024年度から3年~5年を集中期間とした年間3兆円という予算規模を縮小すべきだろう。児童手当拡充では、所得制限を撤廃する方針であることは、予算規模をいたずらに大きくするため問題だ。また、児童手当の対象年齢拡大や増額も、どの程度少子化対策として有効であるか明らかではないように思われる。つまり、負担に見合った十分な効果が得られるかは不確実だ。

さらに、女性が育児をしながら働きやすい環境を企業とともに整えていくこと、婚姻率の低下に歯止めをかけること、婚外子の社会的地位、権利を高めることなど、予算の積み増しだけにとらわれない、多様な少子化対策も選択肢とすべきだったのではないか。

財源だけでなく、少子化対策の規模や中身についても、年末にかけて国民的議論を展開し、必要に応じて柔軟に見直して欲しい。

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