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『外国人1割社会』で日本経済は再生できるか?

2023/06/26

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人口減少危機への対応として外国人受け入れを拡大

民間有識者による令和臨調は6月21日に、人口減少下で日本社会の未来像を提案する呼びかけ第一弾「人口減少危機を直視せよ」を公表した。この中で、「もはや少子化対策だけでは日本の急激な人口減少を食い止めきれない」として、「日本社会をますます開かれたものとし、外国出身者を含め、世界の多様な地域から集まった人々が力を合わせ、互いに学び合うことができる環境を整備したい」と謳っている。つまり、外国人の積極的な受け入れを、人口減少への対応策として打ち出しているのである。

国立社会保障・人口問題研究所が今年4月に公表した日本の将来人口推計(令和5年)では、中位仮定の下で、2070年の人口は8,700万人と、2023年の推計値1億2,441万人から30%の大幅減少となるとされた。

しかし、2070年時点の人口の推計値は、5年前の前回調査(平成29年)の8,323万人からわずかに上方修正されている。これは、外国人の推計値(国内滞在期間90日超)が上方修正されたことによるものだろう。

外国人比率増加の社会的課題と経済的メリット

2022年6月末時点の在留外国人数は296万1,969人(出入国在留管理庁)である。さらに人口推計では、外国人は2022年以降毎年16万3791人増加する前提である。その場合、2070年の外国人の人口は、約1,082.49万人となる計算だ。これはその時点の推計人口全体の12.4%に相当する。

2022年の外国人比率は2.4%である。その比率が約50年後の2070年には12.4%まで上昇する、つまり外国人の比率が現在の50人に1人強から10人に1人強にまで高まるのである。それは日本社会にとってはまさに劇的な変化と言えるだろう。

仮にそうしたことが現実となる場合、その過程では社会的に様々な課題を生むことになるだろう。外国人を日本社会に受け入れていくための環境整備、外国人子女の日本での教育問題などだ。

他方で、経済的には大きなプラス効果を生むことになる。外国人が労働供給と需要(消費)の両面から、人口減少が進んで活力を低下させる日本経済を支えることになるだろう。今後も拡大が予想されるインバウンド需要の拡大と相まって、大きな経済効果を生むことが期待される。

外国人積極活用による具体的な成長戦略を描け

ただしこの推計は、外国人の年間純増数(国内滞在期間90日超)を、2022年の推計値16万3,791人で先行き横ばいとなることを前提としている。日本人の人口が減少する中、一定のペースで外国人が増えていくことで、50年後には10人に1人超が外国人になるという計算だ。

政府は、機械的な推計の結果として外国人比率が2070年に1割に達することを示すのではなく、外国人と共生できる社会を目指して、外国人を積極的に活用することを日本経済の再生につなげるように、具体的な戦略を描く必要があるのではないか。その上で、外国人比率1割などを正式な目標に掲げるべきではないか。それが令和臨調の主張するところなのだろう。

外国人労働力が潜在成長率を押し上げる

将来人口推計(令和5年)が前提とするペースで日本における外国人の数が増えていく場合、それは日本の潜在成長率に相当のプラスの効果をもたらす計算となる。

日本人、外国人ともに人口に占める労働力、つまり就業者数の比率が一定であることを計算の前提とする。そのもとで、人口の減少率は2070年にかけて加速的に低下していくことから、労働供給が潜在成長率に与える影響では、マイナス幅が一貫して拡大していく形となる。他方、2070年に人口全体の12.4%まで増加する外国人(労働力)によって、そのマイナス幅の拡大は一定程度抑えられる。外国人による各年の潜在成長率へのプラスの効果は、2070年にかけてプラス幅を拡大させていき、2023年+0.10%から+2070年には+0.24%まで高まる(図表1)、(図表2)。

ちなみに、向こう50年の年間平均値で見ても、その影響は+0.14%である(図表2)。日本銀行が推計する潜在成長率が、最新の2022年10-12月期で+0.27%に留まる点を踏まえると、外国人の増加が日本の潜在成長率に与える影響はかなり大きいと評価できるだろう。

図表1 人口(労働供給)変化の潜在成長率への影響

図表2 人口(労働供給)変化の潜在成長率への影響(年間平均、%)

外国人増加の潜在成長率への影響は試算結果よりもさらに大きくなるか

上記は、外国人労働者の増加が潜在成長率に与える直接的な影響を試算したものだ。ただし、外国人が労働供給、需要の両面から日本の潜在成長率を押し上げるとの期待が企業の間で高まれば、企業は中長期の成長率見通しを引き上げ、それに対応して設備投資を拡大させるだろう。それは、資本ストックの増加と生産性(TFP:全要素生産性)の向上を通じて、潜在成長率をさらに押し上げることになるはずだ。

また、外国人労働者の増加という労働者の多様性の拡大が、企業経営に刺激を与え、経済効率の向上に貢献する可能性も考えられるだろう。

こうした点を考慮に入れると、外国人が人口推計の通りに増加する場合には、それが潜在成長率に与える影響は、上記の試算よりも大きくなることが期待されるのである。

外国人労働者の積極活用、移民政策の導入をタブー視しない

政府は6月9日に、人手不足対策として、外国人労働者の在留資格である「特定技能2号」の対象を、現在の2分野から11分野に広げる方針を閣議決定した。特定技能制度は国内の労働力不足に対応するために2019年に導入された制度だ。一定の技能が必要な特定技能1号と、熟練技能が求められる特定技能2号とがある。特定技能2号では、事実上無期限の在留や家族の呼び寄せが可能となる。3月末時点で1号の対象者は15万4,864人、2号の在留者は11人しかいない。

現時点では、自民党保守派などからの反発や国民の慎重な意見を踏まえ、特定技能制度の見直しは「移民政策とは異なる」、というのが政府の公式見解だ。

しかし、人口減少が進む中、国内の労働供給を拡大させるためには、同制度の積極的な見直しを通じた外国人労働力の活用が必要なのではないか。また、人手不足期に一時的に外国人労働者を受け入れるのでは、経済の潜在力向上につながらない。外国人労働者の長期滞在や家族呼び寄せも認め、労働供給、消費の両面から中長期的に日本経済に貢献すると期待が高まることで、初めて企業の投資が促され、潜在成長率の上昇につながるだろう。そのためには、長期在留が可能な特定技能2号の枠をさらに大幅に拡大させていくことが必要だろう。

日本には移民政策が存在しないと言われている。政府は、「国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を、家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策」を移民政策であるとする一方、現在のように「専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れること」は移民政策とは異なるとの説明をしてきた。移民受け入れに対する国民の慎重論にも配慮してきたのである。

しかし日本経済、社会を大きく不安定化しかねない危機的な人口減少への対応として、移民政策の導入もタブー視せずに議論を進めていく必要がある。現在は、「特定技能2号」の枠拡大が、なし崩し的に移民政策の導入へとつながっていく様相を帯びてきている。それを国民的議論へと発展させたうえで、中長期のビジョンを明確にしながら、戦略的に移民政策を逃げずに正面から考えていくことが重要だ。

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