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ドル円レートが前回介入ポイントの145円台に

2023/06/30

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政府は為替介入を再開か

6月30日の為替市場でドル円レートは、7か月ぶりとなる1ドル145円台に一時乗せた。昨年9月22日には、日本銀行が金融政策決定会合で金融政策の維持を決めたことをきっかけにドル円レートは1ドル145円台と、23年ぶりの水準に達した。それを受けて、政府は1998年6月以来24年ぶりとなる円買いの為替介入を実施した。その介入ポイントまで、再び円安が進んできたのである。

既に政府(財務省)は、口先介入を繰り返してきている。1ドル145円~150円のレンジの中で、政府は円買いの為替介入を再開すると見ておきたい。

昨年9月と比べて、政府の介入に対する市場の警戒感は概して弱い。企業や個人の円安進行に対する警戒心が昨年ほどには高まっていないことがその背景にあるだろう。そのため、米国や他の主要国との間に緊張感を高めてまで、無理に、政府は円買い介入を実施しないのではないか、との見方がある。

それでも、円安がさらに進めば、企業や個人からの批判も高まる可能性が高く、為替介入は早晩実施されると見ておきたい。

昨年と比べて円安進行への警戒が強くない理由

確かに、企業や個人の円安に対する警戒心は。今のところは昨年ほどには高まっていない。円安は経済に悪影響を与えるという「悪い円安論」も強くは聞かれない。

昨年と現在との違いは、第1に、為替の振れ幅だろう。昨年は年初の1ドル110円程度から151円まで41円程度も短期間で一気に円安が進んだ。それに対して今年は、年初の1ドル130円程度(今年の円高のピークは127円台)から145円と15円程度しか円安に振れていない。それゆえに、急激に円安が進んだ、との警戒感が醸成されにくいのではないか。

第2に、円安によって国内経済が悪化するとの警戒感が、企業や個人の間でそれほど高まっていない。それは、今年の春闘で賃金が予想以上に上昇したことで、早晩、賃金の上昇が物価の上昇に追いつくとの期待が高まっていることがあるのではないか。感染リスクの低下、インバウンド需要の急回復も、景況感の改善を助けている。

また、昨年は円安局面でも株価の顕著な上昇は見られなかった。日本株に大きな影響を与える米国株が、金利上昇の影響で調整していたためだ。しかし現状では、米国株の調整が一巡する中、円安の追い風を受ける形で日本株は5月以降大幅に上昇してきた。これも、企業や個人の景況感の改善を後押しし、悪い円安論の浮上を抑えている面があるだろう。

昨年も今年の円安進行は日米金利差の変化による

昨年、円安ドル高が進んだ際には、その背景は、日本の貿易・経常収支の悪化や日本の国力の低下、との指摘もあったが、実際には、日米間の金融政策の差、それに基づく長期金利差の拡大によるところが大きかった。

米国での利上げ一巡観測、日本銀行の政策修正観測が高まり、日米金利差縮小(期待)が1ドル151円まで進んだ円安に歯止めをかけ、その後の円高を促したのである。

足もとの円安についても、同様に日米金利差の期待の変化で生じている面が強い。昨年12月のイールドカーブ・コントロール(YCC)修正をきっかけに、金融市場は今年4月の新体制の下で、日本銀行が政策修正を進めるとの期待を強め、それが円高を後押しした。しかし植田総裁のもとで日本銀行が政策を維持する中、政策修正期待が後退していき、それが円安圧力を再び高めている。

また、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが想定よりも長引く、あるいは利下げの時期が後ずれするとの見方が浮上する中、それが足元でドル高円安を後押ししているのである。

日本銀行の早期政策修正への期待はかなり後退したことから、この先円安・ドル高をさらに進める可能性があるのは、米国での利上げ継続、利下げ先送り観測の強まりといった米国側の要因だろう。それは経済指標の出方によって決まる面が大きいため、事前の予測は難しい。

昨年10月の1ドル151円までは円安ドル高は進まない、と現状では見ておきたいが、140円台後半の水準にしばらく留まる可能性は十分に考えられる。

為替介入は「時間を買う」政策

昨年の例を見ても、為替介入は為替の動きを一時的に抑えることはできるとしても、その流れを変えることは難しいと言える。為替介入の本質は、「時間を買う」政策である。

特に円売りではなく円買いの介入は、過去の経験に照らしてもその効果は限られやすい。円売り介入では、政府はほぼ制限なく介入資金の円を調達できるが、外貨を売る円買い介入の場合には、政府が保有する外貨準備の額が介入資金の上限となってしまうためだ。

また国際決済銀行(BIS)の調査によると、2019年4月時点で日本の外国為替市場の1営業日あたりの平均取引高は3,755億ドル(54.4兆円)である。仮に1日の介入額が1兆円の場合、それは日本の為替市場での1日の平均取引額の2%未満にすぎないことになる。

米国情勢の変化で急速な円の巻き戻しのリスクにも注意

足もとの円安ドル高の流れが変わるには、米国の経済・金融情勢の変化、金融政策の変化を待つ他はない。ただし、現状の円安ドル高は行き過ぎた状況、と考えられ、米国経済の減速、金融不安の再燃、FRBの利下げ観測の浮上などが生じれば、一転して急速な円高・ドル安への巻き戻しが生じる可能性も見ておきたい。

さらに、向う数年のうちには、日本銀行の政策修正は相応に進み、その中でドル円レートは均衡水準と考えられる1ドル110円程度へと進んでいくものと予想する。

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