フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 植田総裁は金融政策の変更見送りを示唆

植田総裁は金融政策の変更見送りを示唆

2023/07/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2%の物価目標実現には距離がある

インドで開かれたG20(主要20か国地域)財務相・中央銀行総裁会議に参加した植田日銀総裁は18日、現地で記者会見を行い、日本の金融政策について語った。

植田総裁は、「日本銀行が目指す持続的・安定的な2%の物価目標実現には距離がある」との認識を示したうえで、「距離があるとの認識に変化がなければ、粘り強く金融緩和を続ける姿勢も変わらない」と発言した。この発言は、7月27・28日の金融政策決定会合での政策修正期待に水を差すものだ。

ただし留意したいのは、ここでいう「金融緩和の継続」とは、政策金利を引き上げるなどの「政策の修正を全く行わない」という意味ではなく、「金融緩和の状態を続ける」と解釈すべきだろう。例えば、日本銀行が現在-0.1%の短期の政策金利を0%にまで引き上げてマイナス金利政策を解除するといった政策修正を行っても、歴史的に極めて低い金利の水準は維持され、金融緩和の状態は続く。

植田総裁が堅持している2%の物価目標を早期には達成できず、そのため金融緩和状態を長く維持することを余儀なくされる場合でも、いずれは、必要な政策の見直しは行うのではないかと思われる。

2%の物価目標を早期に達成できないと日本銀行が判断した場合、金融緩和は長期化することが避けられなくなる。その長期戦に耐えうるよう、金融緩和の継続の障害となり得る副作用を軽減するとの名目で、日本銀行は金融緩和の枠組みの見直しを進めることになると予想される。

ただし、日本銀行が2%の物価目標を早期に達成できないと宣言するのは、早くても来年の春闘の結果を受けて、と考えられる。そのため、本格的な政策修正が年内に実施される可能性は低い。

債券市場の機能低下に大きな変化は見られない

ただし、変動幅再拡大といったイールドカーブ・コントロール(YCC)の修正については、それとは別に、年内にも実施される可能性がある点には注意が必要だ。それは、政策修正に否定的だった黒田前総裁の下で昨年12月に既に実施されたことから、実施に向けたハードルは低いと言える。日本銀行は、金融緩和の枠組みの本格的な見直しではなく、昨年12月の修正の延長線上にある柔軟化措置、との説明でそれを年内にも実施するだろう。

そこで注目されるのは、G20財務相・中央銀行総裁会議の前に開かれたG7(主要7か国)財務相・中央銀行総裁会議後の植田総裁の債券市場についてのコメントだ。「債券市場の機能に関する私の認識は4月や6月の決定会合のときと大きく変わっていない。全般的にある程度、流動性の低下など機能の低下が見られているが、ひところ見られたようなイールドカーブの形状のゆがみの現象はかなり緩和されてきている」と述べた。

金融市場では、7月27・28日の次回金融政策決定会合で、YCCの変動幅再拡大などの見直しを実施するとの観測が燻ぶっている。しかし植田総裁の発言は、昨年12月のように、市場機能の低下を理由にYCCの修正を実施することに否定的な内容と言える。

YCCの修正観測によって10年国債の利回りが変動幅の上限である0.5%に達すると、日本銀行は、指値オペや臨時の国債買いオペを通じて、利回り上昇を抑えることを強いられる。そして、日本銀行が、国債の大量買入れを回避するためには、変動幅の再拡大などを実施する必要が出てくる。このように、金融市場が自己実現的に、日本銀行にYCCの見直しを強いることになる可能性が考えられる。

そのため、この先の金融市場の動きをなお見極める必要はあるが、現時点では、日本銀行は次回金融政策決定会合で、YCCの見直しを行う可能性は想定していないと考えられる。政策変更は見送られる可能性が高い。

ただし、仮に金融市場に促される形でYCCの見直しを余儀なくされる場合には、日本銀行は直前に、その可能性を金融市場に伝えることを怠らないだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ