2025年度プライマリーバランス黒字化目標堅持に強い違和感(中長期の経済財政政策試算)
内閣府は25日に「中長期の経済財政に関する試算」を公表した。この試算によれば、ベースラインシナリオ、成長実現シナリオのもとで、ともに2025年度にプライマリーバランス(PB)は黒字化しない。しかし、それぞれ名目GDP比で-0.4%、-0.2%と2023年度見通しの-4.9%と比べて大幅に改善する。さらに、成長実現シナリオのもとで歳出効率化努力を継続した場合には、2025年度のPBの名目GDP比は+0.1%とわずかにプラスとなる。
これらを根拠に、政府は2025年度のPB黒字化目標を引き続き堅持する、としている。後藤経済財政・再生担当相は、財政健全化の旗を降ろさず、「2025年度のPB黒字化を目指していくことに全く変わりはない」と説明している。
非常に奇妙であるのは、2022年度のPBの名目GDP比率の実績が-5.0%、2023年度の見通しが-4.7%(GX対策などを除くベース)であるのに対して、2024年度の同数値が-0.8%まで一気に改善する見通しであることだ。
コロナ禍における対策で増えた歳出が正常化し、平時に戻っていくことが、PBの改善をもたらすとの説明となっている・しかし、2023年度以降は、GX投資、防衛費倍増、少子化対策増加など、歳出の増加が目白押しとなる中、コロナ関連対策の一巡だけで歳出の水準が大幅に減少し、コロナ前の-2%台よりもPBの名目GDP比率が改善するとは、にわかかには信じがたいところだ。
2025年度PB黒字化目標は、政府が財政健全化姿勢を維持していることを示すシンボリックな存在となっており、もはやそれが達成できるか否かは重要でなくなっているように思われる。目標達成はほぼ不可能であっても、政府が達成可能であると言い張る限り、政府の財政健全化姿勢が維持されていることを対外的にアピールできる。あと一年は、2025年度PB黒字化目標を維持するために、かなり無理をして作ったという印象が強いのが、今回の「中長期の経済財政に関する試算」だ。
政府としては、ここでPB黒字化の目標を先送りすれば、それに乗じて財政拡張を主張する自民党内の勢力が勢いづき、歳出拡大と国債発行の増発につながること、まだ決着が着いていない防衛費増額、少子化対策の財源の議論に悪影響が及ぶことを警戒しているのかもしれない。その点は理解できるとしても、そもそも実現不可能であることが明らかな財政目標を政府が堅持することは政府の信頼性にも関わる問題だ。
2025年度PB黒字化目標を、より現実的な2030年度黒字化目標などに先送りしたうえで、今度こそはそれを確実に達成できるような歳入・歳出改革の具体策をしっかりと示していくことが、本当の意味での財政健全化の政策姿勢と言えるのではないか。
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