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中国の半導体素材の輸出規制が始まる:今後の拡大リスクを占う観点からその運用姿勢を見極める必要

2023/08/01

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日米への報復とみられる中国の半導体素材の輸出規制

中国政府は8月1日から、半導体の材料となるレアメタル(希少金属)であるガリウム(8種類)と樹脂や電化製品などに使われるゲルマニウム(6種類)の関連製品、さらに次世代半導体の基板などに使われる窒化ガリウムの輸出規制を始める。

ガリウムは未来半導体開発や有機ELディスプレイ素材などとして使われており、またゲルマニウムは、半導体工程用ガス生産などに使われる。欧州重要原材料アライアンス(ERMA)によると、世界のガリウム生産量の約80%、ゲルマニウム生産量の約60%を中国が担っている。

中国政府は今回の措置の目的を、国家安全保障と利益を守るため、としている。中国政府は明言していないが、米国が主導する中国への先端半導体関連の輸出規制への報復措置とみられる。これは、米中間での貿易摩擦が一段と拡大するきっかけになる可能性が考えられる。

昨年秋に先端半導体の対中輸出を厳しく制限し始めた米国からの要請に応じて、日本も7月23日から中国を念頭に先端半導体の製造装置の輸出規制措置を導入した。今回の中国の輸出規制には、日本への報復も含まれている可能性がある。

2010年中国レアアースの対日輸出規制の教訓

中国の対日輸出規制で思い起こされるのは、2010年に尖閣諸島沖で起きた中国漁船と海上保安庁の巡視船との衝突事件を受けて、中国はレアアースの対日輸出を事実上規制したことだ。この際に中国は、同措置を「環境保護のため」と説明したが、世界貿易機関(WTO)に協定違反と認定された。この経験から、今回は安全保障上の理由と説明したとの見方もある。

また、2010年のレアアースの対日輸出は、中国にとって誤算の面があった。当時、日本は中国以外からの調達や代替素材への移行を急速に進めた。その結果、日本のレアアースの輸入の9割程度を占めていた中国の比率は、足元で6割程度まで低下している。中国は市場を失うとともに、需要後退によるレアアースの価格下落にも見舞われたのである。この時の苦い経験もあることから、今回、中国がどの程度厳格なレアメタルの輸出規制を行うかは不確実だ。

日本企業はコスト高に見舞われ、既に物価高に苦しむ消費者に転嫁も

しかし、中国の輸出規制の影響を警戒して、ガリウムの価格は急騰している。足もとでは7月月初から約2割上昇している。中国以外からガリウムを調達する動きが強まっているためだ。

ガリウムは中国が生産シェアの約8割を握ってはいるものの、ガリウムはアルミニウム精錬の副産物として得ることができるため、他の国から入手することも可能だ。また日本では、リサイクルによる調達も多い。

そのため、日本企業がガリウムを入手できなくなってしまう可能性は小さいだろう。しかしそれでも、中国の輸出規制の影響で、既に価格は高騰していることや、アルミニウム精錬の副産物としてガリウムを得るにはコストがかかるため、生産コストの上昇が日本企業の打撃となる可能性は高いだろう。それは、物価高に苦しむ消費者に最終的に転嫁される可能性もある。

注目されるのは、今後の中国の対応である。中国英字紙のチャイナ・デイリーは、今回の措置は「対抗措置の始まりに過ぎない」とする元商務省高官の見解を伝えている。今後、中国の輸出規制も対象がレアメタルなどに広がる可能性がある。それが、米中間を中心とした貿易摩擦をさらにエスカレートさせる可能性があるだろう。そうなれば、日本を含む世界経済への影響は大きくなり、サプライチェーンの混乱が再燃することになる。

まずは、中国が今回の輸出規制措置をどの程度厳格に運用するかを見極めることが、今後のリスクの拡大を探るうえで重要となるだろう。

(参考資料)
「中国、あすからガリウムとゲルマニウムの輸出統制…鉱物供給網揺れる」、2023年、7月31日、中央日報日本語版
「中国、ガリウムなど半導体材料を輸出規制 米に対抗、1日から」、2023年7月30日、産経新聞
「中国の輸出規制 日本の「強み」影響危惧 パワー半導体、調達先など模索」、2023年7月30日、産経新聞
「「中国、レアアース輸出規制も」 政府系シンクタンク研究者 来月からガリウム、米に対抗措置」、2023年7月29日、朝日新聞
「半導体向けレアメタル高騰 中国、来月から輸出許可制に 供給リスクに備え買い」、2023年7月27日、日本経済新聞

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