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歯止めがかからないルーブル安とロシア中銀の大幅金融引き締め

2023/08/15

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経常・財政収支の悪化がルーブル安の背景

ロシアの通貨ルーブルは、8月14日の取引で1ドル=101ルーブルを割り込んだ。100ルーブルを超えるルーブル安は、ウクライナ侵攻直後の昨年3月以来、およそ1年5か月ぶりのことだ。

ルーブルの対ドルレートは年初の1ドル71ルーブルからほぼ一貫して下落を続けている。ルーブル下落の引き金となったのは、昨年12月に主要国が打ち出したロシア産原油の輸出価格上限措置である。これを受けて、ロシア産原油の価格は大きく下落し、経常収支の悪化とともに、エネルギー輸出収入に強く依存する財政収支の悪化が生じた。それらが、ルーブル安の背景にある。

ロシア中央銀行によると、4~6月の経常黒字は86億ドル(約1兆2,500億円)で、1~3月から減少した。また1~7月のロシア政府の歳入は14兆5,250億ルーブルと前年同期比で-7.9%と大幅減となった。これを受けて1~7月の財政収支(速報値)は、2兆8,170億ルーブル(約4兆1547億円)の赤字となった。2022年通年の財政赤字額である3兆2,950億ルーブルに既に近づいている。

物価高によるルーブルの信認低下

7月以降、世界の原油価格は上昇傾向で推移しており、ロシア産原油価格も上昇し、経常収支や財政収支の悪化は多少和らいだ可能性がある。それでも、ルーブル安には歯止めがかかっていない。

背景には、ロシアから撤退する外資系企業が、資産を売却する際にルーブルを売却してドルやユーロに換えていることが影響している可能性がある。さらに、ルーブル安によって物価上昇懸念が強まっていることも背景の一つだろう。

今年4月に前年同月比+2.1%であった消費者物価は、7月には同+4.3%まで上昇している。物価上昇はルーブル建て資産を目減りさせることになるため、ロシア国民が資産を外貨建てに換えるインセンティブを高める。それが、ルーブル安を後押ししている面もあるだろう。

ルーブル安を中銀の責任とする政府

ルーブル安によって生じる物価上昇は、国民生活を圧迫することから、中央銀行としては見逃すことはできない。そこで、ロシア中央銀行は7月に主要政策金利を1%ポイント引き上げて8.5%とした。政策金利の引き上げは、昨年2月以来約1年半ぶりだ。ところが、その効果はあまり見られない。

また中央銀行は、年内いっぱいは国内市場での外貨購入を停止すると9日に発表したが、それでもルーブル安に歯止めはかからない。

そうした中、ロシア政府内からルーブル安を中央銀行の責任とする声が上がっている。マキシム・オレシュキン大統領主任経済顧問は国営タス通信が14日配信したコラムの中で、「ルーブル安とインフレ加速の源は、軟弱な金融政策にある」と主張したのである。ルーブル安の根底にあるのはロシア政府によるウクライナ侵攻であることは明らかであるが、政府は、ロシア中央銀行にユーロ安や物価上昇の責任を押し付け始めたように見える。

通貨防衛の金融引き締めが経済を悪化させるリスクも

ロシア中央銀行は9月15日に次回の金融政策決定会合を予定しており、そこで追加利上げの実施を検討していたとみられる。ところが8月14日になって突如、15日に臨時の金融政策決定会合を開くと発表した。ルーブル安に歯止めがかからないなか、政府からの批判が高まっていることを受けて、急遽前倒しで会合を開催したのである。そして、臨時会合で、政策金利を一気に3.5%ポイント引き上げ、12%とした。前回の1%ポイントの利上げと比べて、かなり思い切った措置である。強い政治的圧力の下での決定だった可能性もあるだろう。

しかし、経常収支や財政収支の悪化というファンダメンタルズの強い逆風が続く中、金融引き締めによってルーブル安に歯止めをかけることができるかどうかは不確実だ。また、大幅な金融引き締めは経済活動や国民生活を悪化させ、結局はルーブル安を後押ししてしまうリスクもある。

ロシア中央銀行は、通貨、物価、経済のそれぞれの安定に配慮して、適切な金融政策運営を模索する姿勢なのだろうが、政府からの強い政治的圧力の影響を受ければ、そうした適切な政策運営が阻害され、大幅な金融引き締めを強いられることで、経済、金融の安定回復がより難しくなってしまう事態も考えられるところだ。

(参考資料)
"Putin's Aide Blames Central Bank for Weaker Ruble, Inflation", "Russia Calls Emergency Key Rate Meeting as Ruble Plunges", Bloomberg, August 14, 2023

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