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ガソリン価格は8月末に196円、9月末に199円と推定:それでもガソリン補助金延長の議論は慎重に

2023/08/16

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ガソリン価格は8月末196円程度、9月末199円程度と予測

8月16日に経済産業省が発表した8月14日時点のガソリン価格(全国平均、レギュラー)は181.9円/リットルと前週8月7日時点の180.3円から一段と上昇した。15年ぶりの水準で史上最高値にほぼ並んだ。今までの最高値は、2008年8月の182円だった。次週は最高値を超える可能性が高い。

政府はガソリン小売価格を抑制する補助金を6月から段階的に削減しており、9月末には撤廃する方向だ。この段階的な補助金の削減策によって、長らく168円程度に抑えられてきたガソリン価格は、足元で182円近くまで上昇してきたのである。

さらに、補助金の影響を除いた本来のガソリン価格も、6月以降の海外での原油価格上昇と円安の影響から足元で上昇しており、これも、補助金の影響を含むガソリン価格が上昇している要因となっている。

国内でのガソリン価格は、海外での原油価格とドル円レートの2つの要素で決まる部分が大きい。そして、後者は2週間弱程度の時間差で前者の価格に反映されていく。そのため、円建ての原油価格の動きを見れば、比較的近い将来のガソリン価格を予想することが可能となる。

足もとの円建ての原油価格の動きは、補助金の影響で押し下げられたガソリン価格が、8月末に196円程度まで上昇することを示唆している。

補助金がさらに削減されていく中、原油価格とドル円レートが現在の水準で横ばいとなるケースでは、補助金が完全に撤廃される9月末にガソリン価格は199円程度になることが予想される。足もとの原油価格と為替が少し動くだけで、ガソリン価格は容易に200円台に乗る状況だ。

原油価格85ドル、ドル円レート150円の場合、ガソリン価格は9月末に212円

この先、原油価格がWTIで現状81ドル/バレル程度から85ドル/バレル程度まで上昇し、またドル円レートが現状145円程度から150円まで円安が進む場合には、9月末のガソリン価格は212円程度にまで達する計算となる。

CPIは累積で0.3%~0.5%押し上げられ、個人消費は0.2%押し下げられる。

補助金削減開始前の168円程度から、199円程度までガソリン価格が上昇する場合、消費者物価は累計で0.34%押し上げられ、212円程度までガソリン価格が上昇する場合には0.48%押し上げられる計算となる。また、ガソリン価格上昇の実質個人消費への影響(1年間)を試算すると(内閣府短期日本経済マクロ計量モデル・2022年版)、1年間でそれぞれ-0.16%、-0.22%となる。

ガソリン補助金制度を弱者支援の制度に転換することも検討すべき

ガソリン価格が史上最高値を超える見通しとなったことなどを受けて、政府内では、9月末のガソリン補助金制度廃止の方針を見直し、延長を検討する動きも出ている。

ガソリン価格の上昇は、既に示したように国民の生活を圧迫し、経済活動に一定程度悪影響を及ぼすことは確かである。しかしそれでも、当初の想定期間を超えて、昨年年初から長らく続けられてきたガソリン補助金制度を延長することについては、慎重に議論を進めるべきだろう。

ガソリン補助金制度には3つの大きな問題点があり、長期化するほどその問題は大きくなる。第1は、市場価格を歪めてしまうこと、第2に、脱炭素社会実現の政策方針と矛盾してしまうこと、第3に、財政負担が膨らむことだ。

ガソリン補助金制度で既に4兆円規模の財政資金が投入されたとみられる。延長されれば財政負担はさらに膨らむ。補助金によって国民が助かると感じていることは確かであるが、その財源は税金や国債発行によって賄われており、結局は国民の負担なのである。本当の意味では、国民は助かっていないことになる。

他方、現在の物価高対策は、電気・ガス料金の補助金制度も含めて、価格上昇によって特に打撃を受ける低所得層や零細企業に絞った、セーフティネットの施策へと転換していくことが望ましいのではないか。例えば、所得制限を付けた給付金制度などが考えられる。

さらに、中国経済の悪化傾向が目立ってきており、これが今後原油価格の低下につながる可能性も考えられる。また、世界経済の減速懸念が、リスク回避での円買い、円高につながる可能性も考えられる。そうなれば、原油価格下落と円高の双方の効果によって、年末にかけて国内ガソリン価格が一転して低下傾向を辿る可能性も十分に考えられるところだ。

ガソリン補助金制度を現状のまま延長するか否かについては、効果と副作用を冷静に比較し、またこの先の国際経済・金融情勢、ガソリン価格の推移を見極めたうえで、慎重に検討を進めるべきだ。

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