中国による日本の水産物輸入停止の経済的打撃は大きくないが、貿易規制のエスカレーションに注意
水産物輸入停止措置は日本の輸出を1年間で0.17%、GDPを0.03%押し下げる
24日午後1時ごろから東京電力が原発の処理水放出を開始したことを受けて、中国は日本からの水産物の輸入を包括的に停止する、と発表した。
中国は既に、10都県産(福島県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、長野県、新潟県)の食品等(新潟県産の精米は除く)を輸入停止していた。また、10都県産以外の野菜、果実、乳、茶葉およびこれらの加工製品等についても、事実上輸入停止状態となっていた。香港も本土に足並みを揃えて、24日から10都県からの水産物輸入を禁止する考えを事前に明らかにしていた。
農林水産省の統計(2022年の農林水産物・食品の輸出額)によると、2022年の水産物の輸出総額は3,873億円で、輸出先の1位は中国、2位が香港、3位が米国となっている。中国向け輸出額は871億円、香港向けは755億円だ。水産物輸出総額に占める中国の比率は22.5%、香港は19.5%、合計で42.0%にも達する。中国による水産物の輸出停止措置は、日本の水産物輸出、水産業にとっては大きな打撃となる。
他方、日本の輸出あるいは経済に与える影響は限定的だろう。中国及び香港向け水産物輸出が輸出全体に占める比率は0.17%に過ぎない(2022年)。さらに、輸入停止が1年間続いても、日本のGDPの押し下げ効果は0.03%に過ぎない。
レアアースの対日輸出規制などにエスカレートすれば経済的打撃は大きい
中国との関係悪化によって、今後日本経済に大きな影響が及ぶ可能性があるとすれば、中国の対日貿易規制措置の対象が他の分野へと広がる場合だろう。
米国は中国に対する先端半導体や先端半導体製造装置の輸出規制を昨年10月に始めた。さらに、米国からの求めに応じて、日本やオランダも先端半導体製造装置の輸出規制で米国に足並みを揃えた。それに対する報復措置とみられるが、中国政府は8月1日から、半導体の材料となるレアメタル(希少金属)であるガリウム(8種類)と樹脂や電化製品などに使われるゲルマニウム(6種類)の関連製品、さらに次世代半導体の基板などに使われる窒化ガリウムの輸出規制を始めた(コラム「中国の半導体素材の輸出規制が始まる:今後の拡大リスクを占う観点からその運用姿勢を見極める必要」、2023年8月1日)。
さらに、米バイデン政権は8月9日に、従来から検討してきた対中投資規制の大統領令を発表した。米国の資金が中国の軍事力強化に利用されることを避けるための措置である。対中国のハイテク輸出規制を資金面から補完することを目指すものだ。さらに米国は、他の先進国にも同様の措置を要請する方針だ。
日本が投資規制でも米国に同調する場合、中国は日本も意識した輸出規制の報復措置を検討する可能性があるだろう。そして、中国政府はレアアース(希土類)や特定の鉱物の輸出規制で報復する可能性がある。その場合には、日本経済にとっては大きな打撃となることは避けられない。
このようなリスクも踏まえると、政府は、処理水放出を受けた中国との関係悪化だけでなく、対中投資・輸出規制で米国との連携のあり方についても慎重に検討していく必要があるだろう。
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