予想通りのタカ派的発言となったジャクソンホールでのパウエル議長講演:中立金利への言及は避ける
昨年と同様のメッセージも金融市場の反応は大きく異なる
金融市場が大いに注目していた25日のジャクソンホール会合でのパウエル議長の講演は、事前予想の域を出ることなく、金融市場にはサプライズとはならなかった。インフレ警戒色を打ち出し、また追加利上げの可能性を示唆した発言で、長期金利の水準は上昇し、ドル高も進んだが、いずれも小幅であった。
パウエル議長は、今後の経済指標によっては「さらなる金融引き締めが正当化される可能性がある」と指摘し、物価の安定回復までには「まだ長い道のりがある」と強調した。
昨年のジャクソンホール会合では、金融市場は利上げの打ち止めを示唆するパウエル議長の発言を期待していた。しかし実際には、インフレ警戒色が強い予想外にタカ派的な発言であったことから、株価が大きく調整するなど金融市場に大きな影響を与えた。この経験を踏まえ金融市場は、パウエル議長のタカ派発言への警戒を事前に強めていたが、懸念されたほどタカ派的な発言とはならなかったのである。
こうした金融市場の観測を意識して、パウエル議長は講演の冒頭で、今回の講演のメッセージは、物価安定回復に向けて強い意志を示した昨年の講演と同じである、と敢えて説明した。しかしこの1年間で、物価環境や政策金利の水準は大きく変化しており、同じメッセージを発しても、金融市場の受け止めは異なる。もはや追加利上げの警戒感が大きく強まることはなかったのである。
昨年はピーク時に9%を超えていた米消費者物価の上昇率は足元で3%程度まで3分の1に下がっている。また1年前の政策金利は2.5%であったが、現状ではその2倍以上になっている。
11月に最後の利上げが金融市場のコンセンサスに
次回9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げ実施の可能性についてパウエル議長は、「さらに引き締めるか、政策金利を一定に保って、さらなるデータを待つかは慎重に決めたい」と指摘した。経済データ次第で追加利上げと見送り双方の可能性に言及したものだが、金融市場ではやや慎重な表現と受け止められ、9月の追加利上げ見送りとの見方が高まった。
パウエル議長の講演を受けて、年内追加利上げの確率は金融市場でやや高まり6割程度となっている。9月の追加利上げを見送り、11月に追加利上げを実施するというのが現在の金融市場の平均的な見方である。
他方、金融市場の関心は利上げ打ち止めの水準やその時期から、高水準の政策金利がどの程度の期間維持されるのかに移っている。物価上昇率の緩やかな低下が続くだけでは、本格的な緩和期待は高まらない。なお堅調な米国経済に明確な失速リスクが確認されて初めて、現在の金融市場の期待を上回る本格的な金融緩和期待が生じることになる。その場合には、長期金利の大幅低下、ドルの大幅下落など、金融市場に大きな影響が生じるだろう。ただし、そうした状況に至るには、なお時間がかかる見通しだ。
市場が注目した中立金利の判断は素通り
今回の講演で金融市場が注目していたのは、パウエル議長の金利の中立水準、いわゆるr*(アールスター)への言及だ。直前には、ニューヨーク連銀は金利の中立水準が大きく上昇した可能性を示す分析を示していた(コラム「ジャクソンホール待ちの金融市場:中立金利の議論に注目」、2023年8月23日)。パウエル議長がこの分析結果を追認する場合には、景気を抑制するためにFRBの追加利上げ余地が広がることになることから、金融市場はそれを強く警戒していた。
しかしパウエル議長は、「中立金利を確実に特定することはできないため、金融引き締めの正確な度合いは不確実である」と述べるに留め、中立水準上昇の可能性について明確な判断を示すことを避けたのである。
さらにパウエル議長は、「2%の物価目標は変わらない」とも明言し、物価上昇率のトレンド(いわゆるP*(ピースター))が切り上がったことを受けて物価目標を引き上げるべきとの一部の議論に距離を置く姿勢を強調した。
このように、パウエル議長は理論や分析に基づく政策よりも、実際に出てくる経済指標に応じて柔軟に金融政策を運営するプラグマティックな政策姿勢を採用することを改めて強調したのである。
(参考資料)
「パウエルFRB議長、必要に応じて追加利上げの用意-高金利維持へ」、2023年8月26日、共同通信
「パウエル議長講演を読み解く 2%は不変もリスクはやはりインフレ」、2023年8月26日、日経速報ニュース
「FRB議長「適切なら追加利上げ用意」インフレ率高すぎる」、2023年8月26日、日本経済新聞電子版
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