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『日本化』に向かう中国経済が日本経済の大きなリスクに:中国の成長率2%下振れで日本の成長率は1.3%下振れ

2023/08/30

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急速に進む中国成長率見通しの下方修正

世界で、中国の成長率見通しを下方修正する動きが続いている。中国政府は2023年の経済成長率目標を「+5%前後」に設定した。これは、当初は保守的な見通しと評価されていたが、その後の経済情勢の悪化を受けて、その達成が危ぶまれる状況となってきた(コラム「世界経済『静かなる危機』①:中国経済は日本化するか?(上):ダブル・デフレと深刻なディレバレッジ(資産圧縮)のリスク」、2023年8月8日)。

多くの予測機関も、2023年の中国の成長率見通しを政府見通しである+5%以下に下方修正する動きが広がってきている。昨年の中国の成長率も+3%と政府見通しを下回ったが、今年も2年連続で政府見通しを下回る異例の事態となる可能性が生じている。さらに来年の成長率も+5%を下回るとの見通しも出ている。その場合、毛沢東主席時代以来で初めて成長率が3年連続で+5%を下回ることになる。

中国での成長率の下振れは一時的な現象ではなく、人口減少や海外からの直接投資の鈍化など構造的要因によるところも大きい。実際、潜在成長率は急速に低下しているとみられる(図表)。中国経済がバブル崩壊後の日本経済のように、長期的な低迷に陥るという「日本化」のリスクも相応にあるだろう(コラム「世界経済『静かなる危機』②:中国経済は日本化するか?(下):日本のバブル崩壊との類似点」、2023年8月9日)。

図表 日本と中国の実質GDP成長率

 

中国の成長率2%下振れで2023年度の日本の経済見通しはゼロ成長にも

それでは、中国経済の成長率下振れは、世界経済、そして日本経済にどの程度の打撃を与えるのだろうか。国際通貨基金(IMF)によると、中国の成長率が1%ポイント低下すると、世界の成長率は約0.3%低下する。2022年の中国の経済規模(名目GDP)は世界の18.1%(IMFによる)であることから、直接的な影響だけ考えれば世界の成長率の押し下げ効果は0.18%程度であるはずだ。それを大きく上回る押し下げ効果が生じる計算であることは、中国経済の下振れが他国経済にもたらす波及効果が大きいことを示唆していよう。

ところで、内閣府「世界経済の潮流(2013年Ⅱ)」では、中国経済の変動が他国経済に与える影響が分析されている。

中国のGDPが1%変化する場合、日本を含む主要5か国の成長率は約0.5%変化する(弾性値約0.5)と試算されている。ただしこの分析は、2012年時点のデータに基づく試算であり、その後の中国経済の規模の拡大を考慮すれば、日本を含む主要国への影響は、現在ではもっと大きいと考えられる。

IMFによると、中国のGDPが世界のGDPに占める比率は2012年の11.1%から2022年には18.1%へと1.6倍以上に高まっている。この点を考慮すると、現時点で中国の成長率が1%下振れると、日本の成長率(主要5か国の平均値に等しいとみなす場合)は0.65%下振れる計算となる。

政府は2023年度の日本の実質成長率を+1.3%としているが、中国の成長率の前提が1%下振れると、この日本の成長率はちょうど半減してしまい、2%下振れるとゼロ成長となってしまう計算だ。そのくらい、中国経済の下振れが日本経済に与える打撃は大きい。

中国経済の下振れは世界の物価安定回復には貢献

また、中国の成長率の下振れは、アジア新興国など主要国以外にも大きな打撃となる。さらに、中国の成長率下振れは、世界の商品市況にも大きな下落効果を生じさせる。それは物価の安定に貢献するというプラスの効果を世界経済にもたらすだろう。

一方で、資源国の経済には先進国以上に大きな打撃を与えることになる。既述の内閣府の分析でも、中国の成長率の下振れの影響は、資源国では先進国の2倍である。中国経済の下振れは、資源大国であるロシア経済にも大きな打撃となり、ウクライナ紛争の行方にまで影響してくるかもしれない。

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