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中国が政府職員にiPhoneの使用を禁じる:米国は中国への先端半導体輸出規制の戦略見直しか

2023/09/08

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中国政府は中央政府機関の職員に対してiPhoneの職場での利用を禁止か

中国政府は中央政府機関の職員に対して、アップルのiPhoneやその他外国製のデバイスを職場に持ち込み使用することを禁じた、とウォールストリート・ジャーナル紙が報じている。中国政府は過去数年間にわたり、一部の政府機関でiPhoneの職場での使用を制限してきたが、今回はその措置を拡大した模様だ。

この措置の狙いは3つあると考えられる。第1は、米国の制裁措置に対する報復だ。米国政府は昨年10月に、先端半導体、先端半導体製造装置の中国への輸出規制を導入した。2019年に米国政府は、中国の大手通信機器メーカーであるファーウェイへの、半導体などの輸出規制措置を導入し、今年年初にそれをさらに強化している。

さらに、米国では多くの州で、中国企業が提供するアプリTikTokの職場での利用を公務員に禁じている。

第2は、海外への機密情報の流出を防ぐ、安全保障上の狙いである。アップルやテスラなどの外国企業は、中国国内にデータセンターを設け、海外にデータが流出しないようにしている。しかし中国政府は、それでも情報管理は十分でないと考えているのだろう。

2021年に中国政府は、テスラ車を州政府が保有する主要企業や軍事関係者が利用することを制限した。テスラ車が蓄積するデータが流出し、安全保障上の脅威となることを恐れたためだ。

第3は、国内製品の利用を促し国内企業を支援する狙いである。中国政府は既に、政府関係機関や国有企業に対して、外国製のコンピューター、OS、ソフトウエアを国内製に置き換えるよう促している。

米国の制裁措置によってファーウェイの5G対応のスマホ生産に制約が生じる中、600ドル以上の価格帯の高額スマホでは、中国国内でiPhoneが支配的地位を維持している。

ファーウェイが7ナノ半導体を搭載したスマホを発売

他方、米国政府にとっては衝撃的な事実が現れた。8月下旬にファーウェイは通信速度が5Gの水準に達したとされる新しいスマホ「Mate 60 Pro」の発売を発表した。米国の先端半導体、先端半導体製造装置の輸出規制によって、5G対応のスマホをファーウェイは製造できないと米国政府は考えていた。

ブルームバーグ社から委託を受けた調査会社テックインサイツがこのMate 60 Proを分解したところ、同端末には中国の半導体メーカーSMIC(中芯国際集成電路製造)が製造した新たな「麒麟9000s」チップが搭載されていた。これは、SMICの最先端7ナノテクノロジーを初めて使用したものだという。

バイデン政権が昨年10月に中国向け先端半導体輸出規制を導入したのには、14ナノ半導体に中国がアクセスするのを阻止する狙いがあった。しかし、実際には、そうしたもとでも、最先端の3ナノから5年遅れの7ナノ半導体を中国が製造できていたことになる。依然として少量の生産に留まっている可能性はあるが、米国の制裁措置に誤算が生じたことが考えられる。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は9月5日に、Mate 60 Proに搭載されているプロセッサーの正確な構成を知りたいと米政府は考えている、とホワイトハウスでの記者会見で明らかにした。バイデン政権の受けた衝撃は大きい。

この事態を受けてバイデン政権は、対中戦略の見直しを迫られるだろう。制裁措置がさらに強化され、米国など先進国と中国の間での経済、貿易面での対立が一層激化するきっかけとなる可能性もある。

(参考資料)
"China Bans iPhone Use for Government Officials at Work", Wall Street Journal, September 6, 2023
「ファーウェイ「Mate 60」分解、SMIC製造の7ナノ半導体使用判明」、2023年9月4日、ブルームバーグ
「ファーウェイ採用の中国製半導体、詳細把握目指す-米政府」、2023年9月4日、ブルームバーグ

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