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日銀利上げ観測で長期国債利回りが上昇、円安には歯止め

2023/09/11

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植田総裁のインタビューで円高、長期利回り上昇

11日の東京市場で、ドル円レートは円高方向に振れた。先週末の海外市場で1ドル147円80銭台まで進んだ円安は、1円程度円高に押し戻された。また、国債市場では10年国債利回りが、0.7%台まで上昇した。7月末に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の運営柔軟化に踏み切って以来、利回りが0.7%台に乗せたのは初めてだ。この水準は9年8か月ぶりの水準である。

為替市場での円高、国債市場での利回り上昇のきっかけとなったのは、9日の読売新聞に掲載された植田日銀総裁のインタビュー記事である。そこでの発言が、年内等早期の利上げの可能性を示唆したとして、金融市場は反応したのである。

年内利上げの可能性を示唆か

植田総裁は、現状は「来年の賃金上昇につながるかどうか見極める段階だ」としたうえで、「(来春の賃上げが)十分だと思える情報やデータが年末までにそろうことも可能性としてはゼロでない」と発言した。インタビューの中でこの部分の発言が、金融市場に早期利上げ観測を浮上させた。

ただし発言全体を見れば、従来とは異なるトーンで利上げに前向きな発言をした、とまでは言えないだろう。「(物価目標の達成が)まだ達成が見える段階ではない。物価目標の実現が見えてくるのは、賃金と物価の好循環が金融緩和を止めても自律的に回っていく状況だ」、「物価目標の実現にはまだ距離があり、粘り強い金融緩和を続ける」などの発言は、従来通りに政策修正に慎重な発言である。インタビュー全体としてはバランスが取れていると言える。

政策修正の2つのシナリオ

植田総裁は、2%の物価目標を安定的に達成するのは難しい、と引き続き考えているだろう。しかし、現在の金融緩和には様々な副作用のリスクがあることから、政策修正を行う意向を強く持っているものと考えられる。そこで、一定程度物価の上振れが続けば、それを口実にして、自信は持てなくても「物価目標達成が見通せた」と宣言して、政策修正に踏み切る可能性があるだろう。

しかしそれ以上に可能性が高いと考えられるのは、来年の春闘での賃上げ率が期待したほど上昇せず、物価目標の達成は短期的には難しく、金融緩和は長期化を余儀なくされる、との判断を示すことだ。

そのうえで、長期戦に備え、緩和の持続性を高めるため、その妨げとなる副作用の軽減を狙った政策修正を行う、というシナリオである。その場合、来年の春闘を見極める必要が出てくる。政策修正は来年以降となる可能性が依然として高いだろう。

物価の上振れが著しい場合には、第1のシナリオに沿って、年内に政策修正に踏み切る可能性もあり得るが、その可能性が高くないことは、植田総裁の「可能性としてはゼロでない」との表現に表れているのではないか。

YCCの柔軟化で日本銀行は円安をけん制する手段を手に入れた

今回の植田総裁の発言は、早期の利上げの可能性が高まったことを示すものではないと考えるが、他方で、円安のけん制を多少意識したものであった可能性はあるだろう。黒田前総裁のもとでは、YCCの厳格な運営にこだわる黒田総裁と、その結果進む円安を強く警戒する政府との間で軋轢が強まり、最終的に政府は円買いドル売りの為替介入に踏み切った。

ただし、植田総裁の下での日本銀行の政策姿勢はより柔軟であり、政府との関係もより良好だ。7月のYCCの運営柔軟化も為替を意識した決定であることを植田総裁は認めている。

そのもとで、今や長期国債利回りの上昇を1.0%までは容認することができる。利回り上昇を容認することで、ドル円レートに大きな影響を与える日米長期利回り格差を縮小させ、円安を抑えることが可能となる。YCCの柔軟化によって、日本銀行は円安をけん制する手段を手に入れたのである。

円安阻止に向け政府と日本銀行の協力関係は強まった

そして、長期国債利回りの上昇を促す手段として、政策修正の可能性を仄めかす口先介入がある。今回の植田総裁の発言が、これに当たる可能性もあるだろう。さらに、長期国債買い入れ額を減少させることで長期国債利回りの上昇を促すことも可能である。

植田総裁の就任、YCCの柔軟化の2つによって、政府と日本銀行がより協力しながら円安をけん制することができるようになった。昨年のように、政府の為替介入しか円安を止める手段がない状況ではない。

この点から、昨年のような幅で円安が進むリスクは小さく、また、昨年の円安のピークである1ドル152円台手前まで円安が進むかどうかは、依然不確実である。

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