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10回連続で利上げを決めたECB:軸足は利上げから政策金利の高水準維持に

2023/09/15

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最後の利上げとなる可能性を示唆

欧州中央銀行(ECB)は14日の定例理事会で、政策金利(中銀預金金利)を0.25%引き上げ4.0%とすることを決めた。利上げは10会合連続となる。

今回の会合を前に、金融市場では当初、追加利上げを見込む向きと利上げ見送りを見込む向きとが拮抗していた。ユーロ圏経済はほぼ成長していない状況であり、経済情勢を重視すれば利上げ見送りが適当となる一方、根強い物価上昇圧力への対応を重視すれば、追加利上げが適当となるからだ。しかし、理事会直前の段階では、追加利上げを予想する向きが過半となっていた。

声明文の中では、「政策金利は、長期間維持されれば、物価上昇率が適切なタイミングで目標値に戻ることに相当の貢献をする水準にまで達した(Based on its current assessment, the Governing Council considers that the key ECB interest rates have reached levels that, maintained for a sufficiently long duration, will make a substantial contribution to the timely return of inflation to the target.)」との文言が示された。

これは、今回の利上げが最後となる可能性、その後は政策金利が高水準で維持される可能性を示唆するものと言える。

利下げは議論の対象とはなっていない

ECBの政策の焦点は、追加利上げの有無から、高水準の政策金利がどの程度の期間維持されるかに移っている。

ラガルド総裁は、政策理事会のメンバーのうち「確かな過半数(solid majority)」が利上げを支持したと述べ、何人かは利上げ見送りを支持したことを明らかにした。2022年7月に始まった利上げ局面で、利上げの是非を巡って最も意見が割れた会合になったと考えられる。この点からも、利上げは最終局面にあると考えることができるだろう。

ただし、ラガルド総裁は、「焦点はおそらく若干、期間へと移るだろう」と政策の重点が、高水準の政策金利がどの程度の期間維持されるかに移っていることを認めている。他方で、政策金利が今回でピークに達したかどうかについては「言えない」と述べ、追加利上げの可能性がなお残されていることを強調している。

また「インフレ率は低下したが、この低下が長く続くことを望んでいる」、「景気後退を引き起こしたくてやっているのではなく、物価安定を望んでいるのだ」などと述べ、物価の安定回復のためには景気を犠牲にすることを厭わない姿勢を引き続き示している。

他方で将来の利下げの可能性については、「そのような言葉を口にすることさえしなかった」と、利下げは政策理事会での議論の対象にはなっていないことを示した。

ECBの金融政策の不確実性はなお強い

ECBは、利上げは最終局面にあることを認めつつも、利下げの可能性を強く否定し、また物価安定回復のために高水準の政策金利を長く続ける考えを示している。これは、金融市場での早期の利下げ観測の高まりが、長期金利低下、ユーロ安、株高をもたらし、それらが今までの物価安定回復に向けた金融引き締めの効果を損ねてしまうことを強く恐れているからだろう。それは、米連邦準備制度理事会(FRB)の情報発信と共通している。他方でECBは、今後の政策は経済指標次第として、この点についてもFRBの情報発信に倣っている。

経済がなお堅調を維持する米国とは異なり、ユーロ圏の経済には失速感が広がっている。そのなかで、原油価格の上昇など物価の安定回復を損ねかねない懸念が足元で出ている。そうして、スタグフレーション的色彩がより強まっていることから、今後も金融政策運営は困難を極める。

金融市場はECBの利上げは打ち止めとの見方を強めているが、追加利上げの可能性はなお残されるだろう。他方で、景気情勢が悪化の度合いを強めれば、来年の早期利下げの可能性も出てくる。ECBの金融政策を巡る不確実性はなおかなり強い。

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