9月短観で企業景況感は小幅に改善か:中国経済の下振れがリスクに
DIは安定した経済状況を確認させるものに
日本銀行は10月2日(月)に日銀短観(9月調査)を発表する。現時点での予測平均値は、大企業製造業の業況判断DI(現状)が「+6」程度、大企業非製造業の業況判断DI(現状)が「+25」程度と、それぞれ前回調査の「+5」、「+23」を小幅に上回ることが見込まれている。
前回調査では、大企業製造業の現状判断DIが7四半期ぶりに上昇し、経済の改善傾向を強く示す形となった。今回の調査では、現状判断DIがほぼ横ばい圏内での動きとなり、急速な改善というよりも安定した経済の状況を確認させるものとなろう。
DIの水準に注目すれば、非製造業の景況感が製造業の景況感を大きく上回る「2極化」が続いている。前回調査では、深刻な半導体不足の緩和が、自動車を中心に製造業の景況感を押し上げた。今回調査でもその流れは続くものの、改善ペースは落ちるだろう。他方で、中国を中心に輸出環境に変調が見られている。好悪双方の要因が打ち消しあう形で、製造業の景況感は概ね横ばいの動きに留まるとみる。
他方非製造業では、インバウンド需要の回復が引き続き強い追い風であり、景況感の改善傾向が改めて確認されるだろう。
チェックポイント1:原油高・円安の影響
今回の短観で注目される第1のポイントは、前回調査以降に進む原油高と円安の影響が、企業の景況感にどのように表れるかである。原油高は電気料金の値上げなどの波及効果を含めれば、多くの企業にとって景況感を悪化させる逆風となる。家計については、政府による物価高対策によって、原油高の悪影響を抑えられる方向だが、企業にとっては収益悪化要因だ。また、円安進行は輸出企業の景況感には追い風となるが、円安による輸入品価格の上昇は、輸入原材料に頼る輸出企業も含めて、多くの企業の収益に悪影響を与えることになる。
前回の短観調査では、仕入れ価格判断DI、販売価格判断DIは現状、先行きともに低下し、物価高は最悪期を越えた感があった。しかし今回調査では、一転して、輸入物価の上昇が再び企業収益の逆風となる。
チェックポイント2:インバウンド需要拡大の影響
インバウンド需要の拡大は、宿泊・飲食サービス、小売を中心に、企業の景況感を改善させた可能性が高い。しかし、8月の外国人入国者数は、コロナ前の2019年同月と比べて86%の水準まで回復している。そうした中、宿泊先不足などボトルネックも生じ始めている。この点から、インバウンド需要の拡大ペースが既に落ち始めている可能性があり、それが宿泊・飲食サービスの景況感に表れるかどうかに注目したい。
他方、円安進行によって外国人観光客の日本での支出に割安感が一段と強まっている。このことは、外国人観光客一人当たりの消費額を増加させ(高付加価値化)、外国人観光客数の増加ペースが落ちる中でも、インバウンド需要の拡大ペースを支えている可能性も考えられる。
チェックポイント3:中国経済下振れの影響
中国経済の低迷が、貿易を通じて世界経済に与える悪影響は深刻だ。国際通貨基金(IMF)によると、中国の成長率が1%ポイント低下すると、世界の成長率は約0.3%低下する計算である。中国の名目GDP(2022年)は世界の18.1%(IMFによる)であることから、直接的な影響だけ考えれば世界の成長率の押し下げ効果は0.18%程度となる。それを大きく上回る押し下げ効果が生じる計算であるのは、中国経済の下振れが貿易などを通じて他国の経済にもたらす波及効果が大きいことを示している。
主要国の中で最も打撃を受けやすいのは、中国向け輸出が全体の2割を占めるなど、中国経済への依存度が高い日本だ。内閣府の試算に基づくと、現時点で中国の成長率が1%ポイント下振れると、日本の成長率は0.65%下振れる計算となる(筆者試算)。実際には、この先数年を展望すれば、中国の成長率の下振れは1%ポイントでは済まないだろう。
2022年の日本から中国向けの輸出の中で、22.6%は半導体を含む電気機械、21.4%は半導体製造装置を含む産業用機械などの一般機械である。中国経済の下振れは、輸出の減少を通じて日本の資本財メーカー、IT関連メーカーに大きな打撃となるだろう。短観調査では、はん用機械、生産用機械、業務用機械、電気機械に影響が表れやすい。
日本銀行の金融政策には大きな影響を与えない
日本銀行は、今回の短観では、物価に関わる数値に最も注目するだろう。特に、前回調査以降の円安、原油高の影響を受けて、販売価格判断DIが現状、先行きともにどの程度上振れるかに注目するだろう。また、賃金の上昇がサービス価格にどの程度影響を与えるかという観点から、非製造業の販売価格判断DIも重要となる。
企業(全規模全産業)の5年後の物価見通しは、前回調査では上昇が一服していたが、円安、原油高の動きを受けて、再び上方修正されるかどうかも注目点だ。
このように、足もとでの円安、原油高の影響を中心に、日本銀行は今回の短観調査の中で物価関連の指標に最も注目するはずだ。
ただし、現状の物価高は海外要因による一時的な側面が強く、経済の回復、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇とはまだ言えない、という日本銀行の認識を覆す材料が出てくることはないだろう。この点から、今回の短観調査の結果が、日本銀行の金融政策修正の引き金になるとは考えにくい。
日本銀行が現在最も注目しているのは来年の春闘の行方であり、それを見極める前に政策修正に動く可能性は低いと考えておきたい。
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