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金融市場の早期利上げ観測に水を差した日銀総裁記者会見

2023/09/22

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インタビュー記事の解釈は誤っていたか

9月22日の金融政策決定会合で、日本銀行は大方の予想通りに政策維持を決めた。ただし、金融市場の関心は、会合での決定よりも会合後の総裁記者会見での発言に向けられていた。

2週間前の読売新聞のインタビューで、植田総裁が「年内にも政策修正の判断ができるようになる可能性はゼロではない」と発言したことを受けて、日本銀行の政策姿勢が変化し、マイナス金利解除の実施時期が早くなる、との見方が金融市場で強まったためだ。

インタビュー記事での発言の真意に関する総裁への質問は、さっそく記者会見の冒頭で幹事社によって出された。それに対する植田総裁の説明は、「政策姿勢に変化はない」ことを示すものであった。金融市場の受け止めについては「コメントを控える」としたが、「物価目標の達成がなお見通せない現状では、金融緩和を粘り強く続けていく」、「先行きの経済、物価の不確実性は高く、政策は決め打ちできない」、「政策は毎回の会合で判断していく」といった総裁の説明は、マイナス金利解除が近づいているとの金融市場の一部の見方とかなり距離があるものだ。

金融市場では、インタビュー記事を受けて、マイナス金利解除の時期についての見通しをかなり前倒しする動きが広がったが、これは過剰反応だった可能性が高い。

「年内にも政策修正の判断ができるようになる可能性はゼロではない」と発言したことの意図について植田総裁は、「政策判断は毎回の会合で、合議制のもとで行われるものである中、総裁が政策変更の時期について予め言及することは、会合での議論を縛ることになってしまう。そこで時期は特定できないことを伝える主旨の発言だった」と説明した。金融市場は発言の狙いを誤解したと言えるのではないか。記者会見を受けて、早期マイナス金利解除の見通しは、再び、相応に修正されるだろう。

現状では輸入物価上昇が起点の物価上昇で内発的とは言えない

物価上昇率については、日本銀行が予測しているよりも低下のペースが緩やかであることを総裁は認めている。しかし、物価上昇は輸入物価の上昇が起点となる価格転嫁のメカニズムで主に生じており、内発的なメカニズムが強まっているとの判断には至っていないことを示唆する説明であった。

一部企業で価格転嫁が遅れて実施されていることが、物価上昇率の低下ペースが緩やかな背景であり、それについても「そろそろピークに近い」との明確な見方を総裁は示した。先行き物価上昇率が低下していくとの見方については、強い自信を持っている様子である。

こうした点を踏まえても、日本銀行が早期に2%物価目標が見通せるようになったとの判断を示したうえで、本格的な政策修正に踏み切る可能性は低いだろう。

春闘が重要だが政策変更の時期は特定できない

総裁は、持続的な2%の物価上昇の実現を判断する上で、賃金の動向が重要であり、さらに日本では春闘の時期に賃金が大きく決まる傾向が強いことから、来年の春闘を注視していくとの説明であった。

しかしながら、春闘のみで賃金の動向を判断できる訳でもないとしている。実際、足もとでの所定内賃金上昇率は1%台半ば程度と、春闘でのベアの平均2%強からややずれている。

大手企業の春闘の集計結果はまとまるまでに時間がかかること、春闘でカバーされていない中小、零細企業の比率も相応に高いこと、賃金決定に影響を与える変数は常に変化していることから、賃金動向の把握はどのタイミングでも行えるものだとした。

金融市場は、政策修正が春闘後の来年4月の決定会合で実施されるとの見通しを強めているが、総裁の説明はそうした見方に修正を迫るものとなった。ただし、3月の春闘集中回答日が、政策判断を行う上で重要なタイミングの一つであることは否定できない。

円安を強くけん制するコメントは出されず

円安が進む中、円安を食い止めることを狙って、日本銀行が早期に政策修正を行うとの観測もある。為替についての質問に対して植田総裁は、「将来の経済・物価に影響し常に注視している」、「政府と緊密な連携を取りながら注視していきたい」などと発言した。

為替は常に大きく変動するものであり、円安を食い止めるために日本銀行が政策修正を決めるとは考え難い。ただし、円安進行に対して懸念を抱いていることは確かであり、その懸念を表明するなど、円安に歯止めをかける口先介入的な発言を植田総裁が行う可能性は見込まれていた。

「政府と緊密な連携を取りながら注視していきたい」との発言はやや踏み込んでおり、為替市場への影響を意図したものであった可能性はあるものの、それほど強いメッセージとはならなかった。

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