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米銀の貸し渋りは富裕者層を対象に:サブプライムローン問題からジャンボモーゲージ問題へ

2023/09/26

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続く米銀の貸し渋り

米銀の貸し渋り傾向が続いている。今春の米銀破綻を受けて、中堅・中小銀行は預金の流出を強く警戒するようになった。預金流出が、銀行の信用不安の高まりを示す指標としてにわかに注目されるようになったためだ。そして預金流出を抑えるために、各行は預金金利を引き上げている。

しかし預金金利の引き上げは、銀行の利鞘を縮小させ、収益を悪化させてしまう。利鞘は縮小しても貸出のボリュームを増やすことで、収益を回復することができるが、実際はそうはなっていない。米銀の貸出は前年比で減少しているのである。

これは、大幅な利上げの影響で企業や個人の資金需要が弱いことに加えて、銀行が貸出を抑制しているためだ。貸出資産を抑えることで、自己資本比率を引き上げて信用力を高める狙いがあるが、それに加えて、貸出の信用リスクの上昇にも警戒し始めているのである。

「ジャンボモーゲージ」で高まる銀行のリスク

2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)以前には、銀行は信用力の低い個人向けを中心に、住宅ローンの貸出を急拡大させていた。その後、住宅価格が下落する中でそれが不良債権化し、銀行経営に大きな打撃を与えた。いわゆる「サブプライムローン問題」である。これを受けて銀行は、信用力の低い個人向けの貸出に慎重となった。

しかし、リーマンショック後の長期間にわたる低金利環境、さらにコロナショックに対応した大幅利下げを受けて、銀行は信用力の高い富裕者向けの住宅ローンを拡大させたのである。それが「ジャンボモーゲージ」と呼ばれる富裕者向けの大型住宅ローンだ。これは一般に、72万6,200ドル以上の融資を指し、標準的な住宅ローンよりも金利が低く設定されている。

貸出を伸ばすために、銀行はジャンボモーゲージの金利を大きく引き下げ、また、固定金利での貸出を増やした。そうしたもとで、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な利上げが行われたため、銀行の金利リスクは大きく上昇し、利鞘が縮小したのである。

5月に経営破綻し、JPモルガン・チェースに買収されたファースト・リパブリック銀行は、まさにジャンボモーゲージの拡大で急成長した銀行だが、金利上昇の下、それが破綻のきっかけの一つともなった。同行は、ジャンボモーゲージの分野で、最低水準の金利支払いだけという好条件で提供する「金利オンリーモーゲージ」でもよく知られていた。通常は10年間、元本返済を開始する必要がないという条件だ。

富裕者層が貸し渋りの対象に

現在では、銀行はこのジャンボモーゲージの提供に急ブレーキをかけている。裕福な住宅購入者は今や、期待していた特別待遇や優遇金利を得られなくなっている。現時点で、富裕者向け貸出の焦げ付きが目立っている訳ではないが、賃金は低所得世帯よりも伸び悩んでいる。また、バンク・オブ・アメリカ・インスティテュートによると、富裕者層は低所得層の3倍のペースで失業手当を受給しており、雇用情勢は悪化してきている。

ジャンボモーゲージは通常、標準的な住宅ローンよりも金利が低く設定されているが、ここ数か月でそれが逆転しているという。住宅ローンデータ・テクノロジー会社ブラックナイトによると、ジャンボモーゲージの現行金利は8月中旬時点で7.44%と、標準的な住宅ローンの金利の7.20%を上回っている。米抵当銀行協会(MBA)によると、ジャンボモーゲージの融資枠は3か月連続で減少しており、この分野で急速な貸し渋りが進んでいるのである。

さらに、富裕層の他の借り入れコストも上昇している。調査会社エクスペリアンの1-3月期データによると、新車ローンで信用スコアが最も高い「スーパープライム」層は2年前の約2倍の金利を支払っている。他方、スコアが最も低い「ディープサブプライム」層の金利はほぼ変わっていない。

現在、銀行からの貸し渋りに直面しているのは、リーマンショック時の信用力の低い層ではなく、信用力の高い富裕者層である。彼らの住宅投資や消費が、大幅利上げと銀行の貸し渋りの影響を強く受けて一段と縮小し、米国景気の減速を主導するようになることも考えられるところだ。

(参考資料)
"Banks Don't Love Rich Mortgage Borrowers as Much as They Used To(米富裕層向け「ジャンボローン」 貸し渋る銀行)", Wall Street Journal, August 23, 2023

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