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中国からインドへのシフトを進めるアップルiPhone

2023/09/27

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アップルはインドを「チャイナ・プラス・ワン」と位置づける

「中国政府は中央政府機関の職員に対して、アップルのiPhoneやその他外国製のデバイスを職場に持ち込み、使用することを禁じた」との報道は、中国からインドにiPhoneの生産と販売の軸足を移していこうとするアップル社の戦略を、さらに後押しすることになるかもしれない(コラム「中国が政府職員にiPhoneの使用を禁じる:米国は中国への先端半導体輸出規制の戦略見直しか」、2023年9月8日)。

アップル社は今年4月にインドで初となる直営店を開いた。これまで、主に再販業者、ネット通販サイト、大型小売りチェーン店を通じてiPhoneなどを販売していた。新たに実店舗を開設することで、販路を一段と拡大する狙いがある。

アップルはインドを中国の代替地である「チャイナ・プラス・ワン」と位置づけて、製造拠点を拡大させてきた。それに加えて、市場としてのインドへの関心を強め始めたのである。インドでiPhoneを製造してさらに販売すれば、円滑なサプライチェーンを構築できる。

サプライヤーにも中国からの分散を促す

アップルは過去15年程度、ノートパソコンからiPhone、その付属品まで、最先端のサプライチェーンのほぼすべてを、中国で作り上げてきた。しかし、中国のゼロコロナ政策によって生産が寸断されたことで、アップルは自社だけでなく、そのサプライヤーに対しても中国からの分散を促している。

アップルの主要サプライヤーである台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)は、インド・チェンナイ市近郊にある既存の工場で、iPhoneの生産を拡大する見通しだ。2024年までに年間生産台数を約2,000万台まで引き上げ、雇用者数も約3倍となる最大10万人に増強する計画である。

同社は、グループ内で部品から組み立てまでを担う垂直統合型経営を目指しており、すでにインドでのiPhone生産に合計で17億ドルを投じる計画を進めている。

インドのスマホ市場に大きなポテンシャル

アップルは低価格の中国製品と競合するインド市場で長らく苦戦してきたが、インドの購買力向上の流れとともに、売り上げを伸ばし始めている。調査会社カウンターポイント・リサーチによると、インドのスマホ市場におけるアップルのシェアは2019年にはわずか1%だったが、2023年には5%超えも視野に入ってきた。一方、中国におけるアップルのシェアは2022年10-12月期に22%だった。

昨年のインドでのスマホ価格(税抜き)が平均で206ドルだったのに対し、iPhoneは898ドルだった。しかしアップルの割引対象の最安モデルは500ドルを割ることもある。インドでの製造能力が上がれば、価格はさらに下がる可能性もあり、インド市場でのシェア拡大の余地は大きいだろう。

市場調査会社IDCによると、インドは出荷台数と販売台数ともに世界第2位のスマホ市場であり、そのシェアは約12%に上る。それでもなお国内でのスマホ普及率は50%未満である。これは、インド市場が非常に大きな潜在力を持っていることを意味しよう。

アップルはインドシフトでも他のグローバル企業を主導か

市場調査会社TechInsightsが発表したリポートによると、2023年4~6月の世界のiPhone出荷台数は、前年同期比9.3%減の4,310万台と、過去8年間で最大の減少幅となった。しかしインドでの販売は前年同期比の伸び率が50%を超え、ドイツやフランスを抑えて初めて世界トップ5に入った。

また2023年4~6月には中国が初めて米国を抜いて世界最大の市場に躍進しており、アップルにとって中国市場の重要性が今の時点で大きく低下している訳ではない。しかし、中国の成長力低下、ゼロコロナ政策で浮き彫りとなった工場停止リスク、高まる地政学リスクなどは、生産拠点と市場の双方で、中国リスクが先行き次第に高まっていく可能性を示唆している。

アップルは中国を軸とするグローバルサプライチェーンの構築と中国市場の拡大の双方で、代表的なグローバル企業であるが、インドを中国の代替地である「チャイナ・プラス・ワン」と位置づけ、将来を見据えてインドに次第に軸足を移していくという戦略でも、他のグローバル企業を主導しそうだ。

(参考資料)
"For Apple, India Is the Next China(アップル 「次の中国」はインド)", Wall Street Journal, Aril 11 2023
"China Finally Has a Rival as the World’s Factory Floor(中国にライバル登場 インドが狙う「世界の工場」)" , Wall Street Journal, May 11 2023

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