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米国債メルトダウン:米国10年国債利回り5%に強い違和感

2023/10/05

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米国債市場はメルトダウン状態に

米国債の価格急落、利回りの急上昇が続いている。いわばメルトダウン状態である。米国10年国債利回りは足元で4.8%まで上昇し、5%台が目前に迫っている。30年国債利回りは既に4日に5%に達している。これは、2007年以降で初めてである。米国での長期国債利回りの上昇は、今春に生じた米銀の経営不安を再燃させかねない。

米国の長期国債利回りの上昇こそが、日本では円安進行を促し、物価高を助長することで政府を苦しめている。またそれは、日本の長期国債利回りを上昇させ、7月のイールドカーブ・コントロール(YCC)柔軟化後の日本銀行の利回りコントロールを難しくさせている。さらに、米国の長期国債利回りの上昇が米国の株価下落を促し、その影響で日本の株式市場も逆風に見舞われている。

7月以降、米国の10年国債利回りは、ほぼ1直線に1%ポイント程度上昇してきた。これとほぼ連動して生じているのが、ドル高だ。7月に実施したYCCの運営柔軟化措置によって、日本の10年国債利回りには上昇余地が広がった。これは米国の国債利回りが上昇する中でも、日米長期利回りの拡大を一定程度抑え、円安リスクを軽減しているはずである。しかしながら、米国の10年国債利回りの上昇があまりにも急速であるため、YCCの運営柔軟化後に円安はさらに進んでいる。

利上げ最終局面での予想外のドル高

昨年のドル独歩高は、米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げ、それに伴う長期国債利回りの大幅上昇が引き起こしたものだ。現在でもなお利上げ局面は続いているが、利上げは最終局面にあるとの見方は既に強いコンセンサスとなっている。FF金先市場は、年内FF金利は5%台半ばでピークを付け、2025年末にかけ4%強まで低下していくとの見方を織り込んでいる。

利上げは終わりが近くても、FRBは容易には本格緩和に踏み切らないとの見方が強まる中、長期国債利回りがさらに上昇しているため、日米長期利回り格差との連動が強いドルが強くなっているのが現状と言える。それでもなお、利上げが最終局面にあるとの見方が強い中、ドル高がここまで急速に進んでいるのは意外である。

実質利回りの上昇がドル高を促す

その背景には、為替に影響を与えやすい実質利回りが上昇していることがあるのではないか。インフレ率が着実に低下を続ける中、短期のインフレ期待は低下している。その中で実質短期金利は上昇を続けているとみられる。

またインフレ連動債に織り込まれた10年のインフレ期待は、2.2%~2.3%程度で安定を維持してきた。そのもとで7月以降、10年国債利回りはが1%ポイントも上昇していることは、実質長期利回りが同幅で上昇していることを意味している。これが、予想外のドル高再燃の背景ではないか。

しかし留意しておきたいのは、実質利回りの上昇は、ドルを強くする一方で、米国経済には逆風になるということだ。米国経済に減速感が広まれば、長期国債利回りは低下、ドル高の企業競争力への悪影響の懸念も加わって株価は下落、そしてドルは大幅高から一転して大幅安へと振れやすいのではないか。現在はそうした大きなドルの振幅の転換点に近づいているものと考えられる。

10年国債利回りの上昇は米国経済の潜在力向上の反映か?

5%に近づく米国の10年国債利回りにも強い違和感がある。既に述べたように、物価安定回復に向けたFRBの強い姿勢を反映して、10年の期待インフレ率は安定を維持している。FRBはビハインドザカーブに陥っている訳ではないのだ。

つまり足もとでの10年国債利回りの上昇は、インフレ期待の上昇によるものではなく、実質利回りの上昇によるものだと言える。実質利回りを押し上げる要因として、債務上限問題以降の国債発行増加という需給悪化要因や、政府機関閉鎖問題や下院議長解任を受けた先行きの政府・議会の財政ガバナンスの欠如などへの不安、さらに国債の信認低下が考えられる。

しかし、そうした財政要因、需給要因によって上昇する10年国債利回りが、強いドル高を誘発するだろうか。国債への信認低下は通貨価値への信認低下と連動するのが普通だ。しかし、実際はそうなっていない。そうなると、実質利回りの上昇は、潜在成長率の上昇による自然利子率(中立金利)の上昇を反映しているという解釈になる。10年国債利回りは実質で+2.4%程度である。潜在成長率がこの水準にあるとすると、米国の成長力が従来と比べてかなり高くなったことを意味するが、それを示す証拠はないだろう。仮にそうであれば、株価が相当上昇してよいはずだ。いずれにせよ、10年国債の現在の水準は不可解である。

米国金融市場はいずれ正常化していくか

10年国債利回りが5%ということは、政策金利の向こう10年の平均値の予測値が、5%を大きく下回ってはいないということを意味する。他方でFRBが示しているFF金利の長期水準は2.5%程度であり、この水準との間に相当の乖離があり、やはり不可解だ。

このように、10年国債利回りが5%近くにあることにはかなり違和感がある。さらに、債券、株式、為替の動きがそれぞれにちぐはぐであり、全体を論理的、整合的に説明することは難しい。こうした状況のもとでは、しばしば大きな変動をきっかけに、金融市場は正常な姿を取り戻していくものではないか。

近い将来でいえば、株価が大きく低下する中、長期国債利回りも経済の実態を反映して低下する、という展開がまず考えられる。もう少し先には、米国経済の減速の兆候を確認することや銀行不安の再燃などをきっかけに、行き過ぎた長期国債利回りと行き過ぎたドル高が同時に大きく調整され、株価も下落する、という展開が予想される。

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