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自民党の経済対策提言案:所得減税の明記は見送る

2023/10/17

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岸田首相に足並みを揃えた自民党の経済対策提言

政府は今月末に経済対策をまとめる。それに向けて自民党は、17日に岸田首相に提言案を提出する。同案は、政府が5本柱の経済対策の方針として既に示している内容をなぞったものだ。自民党内で議論が高まっている所得減税は明記されなかった。

自民党の提言案は、「予算・税・制度改革をパッケージとする大胆な経済対策を策定すべき」と主張したうえで、(1)物価高対応、(2)賃上げ、(3)国内の投資促進、(4)少子化対策を含む社会変革、(5)国民の安全・安心確保、の5本柱で構成される。

これは、岸田首相が示した経済対策5本の柱、(1)物価高から国民生活を守る、(2)持続的賃上げ、所得向上と地方の成長、(3)成長力につながる国内投資促進、(4)人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革、(5)国土強靭化など国民の安心・安全、とほぼ重なるものだ。

所得減税など、党から政府に強く要請するような内容は盛り込まれていない。党と政府、あるいは岸田首相との間に軋轢があるとの印象を有権者に与えることを避けること、自民党の提案が採用されない場合の政治的ダメージなどに配慮し、さらに岸田首相の裁量の余地を拡大させる狙いがあったのではないか。

自民提言案の中で物価高対策については、ガソリンや電気・都市ガス料金の激変緩和措置を当面継続することに加え、LPガス(プロパンガス)の価格抑制に向けた事業者の設備導入を支援する措置が盛り込まれる。また、地方自治体が柔軟に物価高対策を講じられるよう地方交付金の拡充が提案された。

賃上げについては、賃上げに取り組む中小企業に対して、日本政策金融公庫などで金利の低減措置を導入することが提案される。赤字が多い中小企業に配慮し、赤字の年度は控除を翌年度以降に繰り越し、黒字転換時に適用を受けられるようにする措置も含まれた。

国内投資促進については、経済安全保障上、重要な半導体について「大胆な国内製造基盤強化策」を講じることが提案される。また、東京電力福島第1原発の処理水放出で影響を受けた水産事業者を支援することも盛り込まれた。

税収上振れ分の減税、給付金は妥当性を欠く

岸田首相が「税収増を還元する」と表明したことを受けて、自民党の提言案も「成長の成果を国民にしっかりと還元」としている。所得減税については明記されなかったものの、引き続き政府に対して、減税の実施を求めていくことが予想される。さらに、国民の負担増を抑制し、暮らしや家計を直接支えるため「思い切った施策の実行を求める」とし、さらに「過去の給付措置も参考に、低所得世帯向けの必要な支援を検討する」と踏み込んだ提案がなされている。これは、税収上振れ分を給付金として国民に還元する考えを示すものだ。世耕弘成参院幹事長らは住民税非課税世帯を念頭に「子ども1人あたり5万円の現金を給付すべきだ」と主張していた。

自民党と同時に岸田首相に提出される公明の提言案でも、所得減税は明記されない方向だ。しかし公明党内では、給付金と減税を組み合わせた対策を求める声も強く、減税についても引き続き実施を求める方針としている。

税収上振れ分の還元との名目で、今回の経済対策には、給付金が含まれる可能性が高まっている。所得減税など減税策も同時に盛り込まれる可能性も引き続き残されている。

ただし、減税にせよ給付金にせよ、現在の経済環境の下で実施する妥当性を欠いていると考えられ、また、税収の上振れ分を減税あるいは給付金で個人、企業に還元することは、歳出額が歳入額を大幅に上回る現在の財政環境の下では妥当でない(コラム、「減税が焦点となってきた経済対策:税収の上振れ分を減税で国民に返すべきなのか?」、2023年10月5日、「一段と高まる減税・給付金の議論:4つの選択肢の経済効果試算」、2023年10月10日)。

今回の経済対策は、選挙を視野に入れ国民受けする政策を並べる「バラマキ」的な色彩が強まっている。

(参考資料)
「低所得世帯に給付=所得減税は見送り―自民提言案」、2023年10月16日、時事通信
「自民、低所得者に給付措置 経済対策で提言案-ガソリン補助金は継続」、2023年10月17日、日本経済新聞電子版

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