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一帯一路構想から10年:中東情勢を受けて中ロは一層の連携強化を確認

2023/10/18

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「一帯一路」フォーラムで中ロ首脳会談開催へ

中国は17日から2日間の日程で、北京で巨大経済圏構想「一帯一路」に関する国際協力フォーラムを開催する。同構想は、習近平国家主席が2013年9月に中央アジアのカザフスタンで提唱した「シルクロード経済ベルト(一帯)」構想に始まるもので、10年目の節目を迎えている。今回は3回目の国際フォーラム開催となり、130か国以上の代表団が参加する。

ここで最大の注目点となるのは、ロシアのプーチン大統領が同フォーラムに参加し、18日習近平国家主席と会談することだ。

プーチン氏の訪中は、2022年2月の北京冬季五輪以来であり、ロシアによるウクライナ侵攻後では初めてとなる。また中ロ首脳会談の開催は、習国家主席が訪ロした2023年3月以来7か月ぶりである。

首脳会談を前にプーチン大統領は、「世界が認めた指導者の一人、世界の領袖」であり、「未来を見通す長期的な観点を持っている」と習国家主席を最大限持ち上げた。

会談では、中ロの経済・貿易協力の拡大について話し合われる。中国は、ウクライナ戦争で、ロシアに対する直接的な軍事支援を拒否しているが、軍事転用が可能な民生用の中国製ドローンがウクライナ戦争で利用されているとの指摘がなされてきた。ロシアのシルアノフ財務相は16日、ロシアが輸入しているドローンの大半が中国製であることを、首脳会談を目前に控えたこのタイミングで明らかにした。軍事面での両国の関係を、先進諸国にアピールする狙いがあるのではないか。

パレスチナ・イスラエル紛争での国際世論への影響を狙うか

両首脳は、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの武力衝突についても話し合う。両国は双方に対して即時停戦を求める一方、イスラエルを先制攻撃したハマスを非難していない。

パレスチナ・イスラエル紛争を巡って、中国は独自の外交路線を進めている。米欧諸国の多くがイスラエル支持を打ち出し、また各国首脳、高官らがイスラエルを相次いで訪問する中、中国はアラブ各国やイランとの会談を重ねている。そのうえで、パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの「2国家共存」による解決を改めて訴えている。

王毅外相は15日、イランのアブドラヒアン外相と電話会談した。その際に王氏は、「イスラム諸国がパレスチナ問題で団結を強めていることを支持する」と表明している。さらに今回の危機は、「パレスチナの人々の建国する権利や生存権が長い間ないがしろにされてきたことが根本原因だ」との見方を示している。

ウクライナ戦争に続き、このパレスチナ・イスラエル紛争は、中ロなど権威主義的国家グループと先進国グループとの対立を一段と強めることとなった。中国は、中立的な新興国であるグローバルサウスの国々も多く集まるこの「一帯一路」国際フォーラムの場を利用して、中東を巡る国際世論を中国側へと誘導し、国際的な影響力強化を狙うのではないか。

逆風が続く「一帯一路」構想

10年が経過した「一帯一路」構想は、習近平国家主席が当初思い描いたほどにはうまく進展していないように見える。中国は、巨額のインフラ投資で新興・途上国への政治的影響力を強めることを図ったが、急速な拡大が米国その他先進国の強い反発を招き、それが障害となっている。

一帯一路構想のもと、中国は、新興・途上国での高速鉄道建設や港湾整備といった大型インフラ事業に相次いで参入していった。やがて同構想は、当初計画に含まれていなかった中南米や太平洋島しょ国、北極海へも拡大したのである。米国を取り囲むように勢力圏を広げるこの「一帯一路」構想に対して、米国は安全保障上の警戒心を強め、これが日豪印などとの安全保障政策上の結束強化にもつながった。

また、「一帯一路」構想の大きな障害となったのは、米国を中心に先進国が繰り広げた「債務のわな」のキャンペーンだった。スリランカが支払い能力を超えて中国からの負債を抱え込み、その返済の代わりに長期の港湾利用権を中国に渡したことを受けたものだ。その後、中国からの支援によるインフラ投資に慎重となる国も増えていった。

習政権は結局同構想の軌道修正を迫られ、2021年ごろからは「小さいながらも美しい」支援の推進を強調し始めている。これは、デジタルや環境分野などで現実的な資金計画を伴う小規模事業に注力する方針のことである。こうして「一帯一路」構想は、小規模化し始めている。

また、2019年に先進7か国(G7)で唯一の構想の参加国となったイタリアは、「想定ほどメリットがない」ことを理由に離脱を検討している。

「一帯一路」構想は後戻りできない

このように、「一帯一路」構想は逆風に見舞われているが、中国がそれを撤回することは考えられない。当初、経済、安全保障、政治など多様な観点から中国の国際的プレゼンスの向上を狙った「一帯一路」構想には、今後は中国経済あるいは政治・社会を支える役割がより期待されるだろう。

中国経済に減速傾向が目立ち始めており、若年者を中心に失業も増加している。これは、社会及び政治体制の不安定化にもつながるものだ。他方、その背景にあるのは人口減少や海外からの投資に支えられた成長モデルの行き詰まりであり、それを反転させることはもはや難しい。そうした中で、中国が、経済、社会、政治の安定を維持していくには、海外に市場を拡大させていく他はないのではないか。その際の基盤となるのが、「一帯一路」構想である。

中国政府が10月に発表した一帯一路に関する白書によると、2013~2022年の一帯一路関係国との貿易総額は年平均+6.4%増加し、中国からの直接投資は累計2,400億ドル(約36兆円)超に上るという。

中国としては「一帯一路」構想をもはや後戻りさせることはできない。しかし、それは米国など先進国との間で、経済的、そして安全保障上の一段の軋轢をもたらすことになるだろう。そうした際に、ロシアに一帯一路構想を強く支持してもらう必要が中国にはある。今回の首脳会談で、中国側の狙いの一つは、それがあるだろう。

(参考資料)
「拡大路線、巨額投資曲がり角 中米対立に拍車も 「一帯一路」10年」、2023年10月17日、ChinaWave経済・産業ニュース
「プーチン大統領が北京到着、習近平主席と18日会談へ」、2023年10月17日、日本経済新聞電子版
「ガザ情勢、独自路線の中国外交 パレスチナ国家樹立で「2国家共存」」、2023年10月17日、朝日新聞デジタル
「訪中したプーチン氏「習氏は真の世界領袖…『臨時職』ではない」」、2023年10月17日、中央日報

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