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所信表明演説原案:妥当性を欠く所得減税の議論

2023/10/18

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「供給力の強化」と「国民への還元」を車の両輪に

10月20日に臨時国会が召集され、23日には岸田首相が所信表演説を行う。その原案がメディア報道によって明らかになった。今月中にまとめる予定の経済対策についての説明が、最大の注目点である。

原案によると、経済対策に関しては「変革を進める『供給力の強化』と物価高を乗り越える『国民への還元』を車の両輪にする」と説明する。具体的施策として、エネルギー価格高騰を受け、ガソリン代、電気・都市ガス代の補助を来年春まで継続する考えを示す。企業の賃上げを促す減税措置や特許などの所得に関する減税制度、中小企業の省力化投資に対する補助制度を創設する。

多くの自治体が実施する低所得者向けに1世帯当たり3万円を給付する措置を後押しするため、重点支援地方交付金の枠組み拡大を行う。

トラブルが相次いだマイナンバー制度については、原則として11月末をめどに総点検を終えるとする。また、デジタル技術を活用した行政効率化と住民サービス向上の実現を目指す「デジタル行財政改革」を起動すると訴える。また、「ライドシェア」導入に向けて検討を始める考えを打ち出す。

5兆円の所得減税は実質GDPを1年間で+0.25%押し上げる

17日に自民・公明両党が岸田首相に示した経済対策提言には、与党内で議論が高まる減税策、特に所得減税については明記されなかった(コラム、「自民党の経済対策提言案:所得減税の明記は見送る」、2023年10月17日)。理由は不明であるが、与党から突き上げられて岸田首相が減税策を決めるのではなく、岸田首相が主導する形で減税策を打ち出すように、事前に与党内で調整された、との見方もある。

岸田首相は近く政府与党政策懇談会を開催し、物価高の負担軽減に向けた減税を念頭に、税収増の一部の「還元」へ具体策を早急に検討するよう与党税制調査会に指示する方針を演説で示す見込みだ。

税制改正には、法人税の税控除にとどまらず、所得税率の引き下げといった本格的な減税措置が含まれる可能性がある。また、本格的な減税の議論は経済対策と切り離され、年末の税制改正で改めて議論されるという、「2段階方式」の可能性もあるだろう。

ちなみに、5兆円の所得減税が実施される場合、実質GDP押し上げ効果は1年間の累積で+0.25%と見込まれる。時限措置の場合には、その効果は半減する(コラム、「一段と高まる減税・給付金の議論:4つの選択肢の経済効果試算」、2023年10月10日)。

減税の必要性とする3つの理由は根拠を欠く

政府は、減税の必要性については、(1)物価高の負担軽減、(2)税収増の国民への還元、(3)デフレ完全脱却のための一時的緩和措置、3つを挙げている。

第1の点については、ガソリン、電気代・ガス代の補助金を来年春まで延長し、低所得者向け給付に加えて、所得税率引き下げを実施すれば、まさに3つの重複する政策となってしまう。物価高対策は低所得者、零細企業を支援する弱者救済措置に絞るべきではないか。

第2の点については、近年、税収が見込みを上回る傾向があるとは言え、歳出額が歳入額を大幅に上回るもとでは、税収分の上振れは財政赤字の縮小、国債発行の削減に使うのが筋だ。

第3の点については、物価高騰が続き、また4-6月期の需給ギャップがプラスとなる中では、需給ギャップをさらに改善させて、物価上昇率のトレンドを押し上げることを狙う施策が必要であるとは思えない(コラム、「減税が焦点となってきた経済対策:税収の上振れ分を減税で国民に返すべきなのか?」、2023年10月5日)。

「バラマキ」的な色彩が一段と強まる

所信表明演説原案で、防衛費増に伴う増税の開始時期に関しては「行財政改革を含めた財源調達の見通し、景気や賃上げの動向を踏まえて判断する」との表現にとどめる。こうして増税議論は先送りする一方、減税議論を先行させるのは、選挙を意識し、有権者の受けを狙った面が強いのではないか。経済対策の議論が進む中、「バラマキ」的な色彩が一段と強まっている。

日本経済の改善や国民生活の向上、将来不安の緩和に必要なのは、経済の潜在力、労働生産性上昇率を高める成長戦略である。議論が進む中で、経済対策の中では成長戦略の存在感が後退する一方、「バラマキ」的な施策の存在感が高まってきている。それは財政赤字の拡大という将来世代の負担を高め、将来需要を前借する形で賄われる。

そうした施策は、将来の成長期待を低下させ、企業の設備投資抑制などを通じて経済の潜在力、労働生産性上昇率にむしろ悪影響を与えてしまう恐れがある。日本経済の改善や国民生活の向上、将来不安の緩和に逆行する施策となることが懸念されるところだ。

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