フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米国が先端半導体分野で中国への規制強化へ

米国が先端半導体分野で中国への規制強化へ

2023/10/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

バイデン政権が中国向け先端半導体を強化へ

バイデン米政権は2022年10月に、先端半導体および半導体製造装置の中国への輸出を制限する規制措置を導入した。中国が軍事的に優位に立ち得る最先端半導体技術の開発を阻止することがその狙いだった。しかし1年足らずで、バイデン政権はこの規制を強化する事態に追い込まれている。バイデン政権は10月17日、規制を強化する考えを打ち出したのである。

新たな規制は、昨年の規制措置を改良して、抜け穴を塞ぐことを目指すものだ。バイデン政権は、中国の半導体設計企業を貿易制限リストに加え、これらの企業からの注文に応じる海外メーカーには米国のライセンス取得を義務付ける。また、先端半導体製造装置やグラフィックスチップの中国企業への販売についても規制を強化する。バイデン政権は、出荷や製造で他国を経由して規制を回避しようとする中国企業に対しても追加検査を課す。

ファーウェイ7ナノの先端半導体を搭載したスマホを発売

バイデン政権が規制強化を決めるきっかけとなったのは、中国の通信機器大手、ファーウェイ(華為技術)が今年8月末に、回路線幅7ナノ(10億分の1)メートルの半導体「キリン9000s」を搭載したスマートフォン「Mate60Pro」を発売したことだ。

この先端半導体は、中国の半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が受託生産した製品とされ、高速通信規格「5G」相当の通信性能も持つ。

先端半導体を搭載したスマートフォン自体は、米国の安全保障上の大きな脅威ではないが、それが中国で軍事利用されることが脅威となる。バイデン政権が2022年に導入した規制の対象は、14~16ナノ以下であった。それらは、スーパーコンピューターやAIに利用される。ところが、ファーウェイのスマホによって、中国は14~16ナノを大きく下回る7ナノの先端半導体を製造する技術を開発したことが明らかになったのである。

7ナノの先端半導体を搭載したファーウェイのスマホが発売された際には、これはかなり限られた台数の試作品のようなもの、との見方もあったが、今ではそうした見方は覆されている。ファーウェイは、2023年に約4,000万台のスマホを販売すると予想されているが、そのうち約半数が新しい7ナノ半導体を使用することになると見られている。さらに2024年には、6,000万台のスマートフォンを販売すると予想されているが、そのほとんどに5G対応の7ナノ半導体が搭載されると見られている。

規制のタイミングが遅すぎたのか?

設計の観点から見たファーウェイの7ナノ半導体は、欧米で設計されたものと同等、あるいはそれよりも優れていると指摘されている。

中国が、米国政府の予想に反して7ナノの先端半導体の自国製造に成功した背景は明らかではない。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、管理された米国の技術に依存していない7ナノ半導体は世界に存在しないため、中国のSMICがそれを製造する際に米国の技術(機械、コンポーネント、スペアパーツ、材料)を使用していることは明らかである、と結論付けている。しかし、その入手経路は明らかとなっていない。

2022年10月に先端半導体および半導体製造装置の中国への輸出を制限する規制措置を導入し、また今年の7月には日本、8月にはオランダが、米国からの要請に応えて先端半導体製造装置の中国向け輸出を規制したが、そのタイミングが中国の自主生産を妨げるのには既に遅かった、との見方もされている。

規制以外で中国に打ち勝つ道を探る

バイデン大統領は2022年8月にチップ法案に署名し、米国の半導体生産と研究に527億ドルを支出し、240億ドル相当の半導体工場の税額控除を実施した。これに対して、中国は半導体の内製化を進めるために、1兆元(約1,370億ドル)を超える半導体産業支援計画を打ち出している。この計画では、中国企業が国内の半導体設備を購入する際に巨額の補助金があてられる。企業は半導体製造工場の建設コストの20%の補助金を得られるという。

政府の強い後押しもあり、中国は半導体の内製化を急速に進めている。バイデン政権が先端半導体の対中規制を強化しても、中国がより先端の半導体を開発し、製造することを妨げることは難しいかもしれない。

米国は、規制以外の手段で、半導体分野の競争、その影響を受けるAI分野、そして軍事分野での中国との競争に勝つ道を見出さなければならないだろう。

(参考資料)
"In Chip Race, China Gives Huawei the Steering Wheel: Huawei’s New Smartphone and the Future of Semiconductor Export Controls", the Center for Strategic and International Studies (CSIS), October 6, 2023
「米政府、先端半導体技術への中国アクセス制限強化へ (電子・計算機・通信・IT)」、2023年10月16日、ChinaWave経済・産業ニュース
「ファーウェイが7ナノ半導体、米の中国包囲網「失敗」、CSIS指摘」、2023年10月15日、日本経済新聞
「「中国の半導体産業」は滅亡の危機・・・日本政府の「23品目の禁輸措置」に中国企業が怯えている理由」、2023年10月14日、プレジデントオンライン

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn