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ECBがデジタルユーロ発行に向け調査段階から準備段階に移行

2023/10/19

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デジタルユーロの2年間の準備段階が始まる

欧州中央銀行(ECB)は10月18日の理事会で、ユーロ圏の中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「デジタルユーロ」のデザインや流通に関わる2年間の「調査段階」を10月に終え、11月から次のフェーズとなる「準備段階」に入ることを正式に決めた。

この準備段階の開始は、デジタルユーロ発行の正式決定ではないことをECBは強調しているが、いずれデジタルユーロの発行を正式に決定する可能性は高いだろう。さらに、2年後にECB理事会は、将来のデジタルユーロの発行と展開に道を開くため、次の準備段階に進むかどうかを決定するとしている。

デジタルユーロの発行には、欧州連合(EU)による法整備が必要となる。EUの欧州委員会は6月に、デジタルユーロに関する法案を取りまとめた。欧州連合の立法プロセスが完了した後にのみ、ECBはデジタルユーロの発行を正式に決めるとしている。

ECBのラガルド総裁は、「われわれは将来に向けて通貨を準備する必要がある」と述べている。2027年あるいは28年頃に、デジタルユーロが正式に発行されるとの見方は少なくない。

この先2年間の準備段階では、デジタルユーロのルールブックを完成させ、デジタルユーロのプラットフォームとインフラを開発できるプロバイダーを選択する。 また、ユーザーエクスペリエンス、プライバシー、金融包摂、環境フットプリントなどの観点から、ユーロシステムの要件とユーザーのニーズの両方を満たすデジタルユーロを開発するためのテストと実験も含まれる。

「無料」、「プライバシー保護」、「現金との共存」、「金融包摂」が基本コンセプト

ラガルド総裁は、「私たちはデジタルユーロを、あらゆるデジタル決済に無料で使用でき、最高のプライバシー基準を満たすデジタル形式の現金として構想していく。それは物理的な現金と共存し、いつでも利用できるようになり、誰一人置き去りにされなくなる」と述べている。

この発言から、「無料」、「プライバシー保護」、「現金との共存」、「金融包摂」などといったデジタルユーロの要件、デザインが確認できる。さらにECBは、デジタルユーロがオンラインとオフラインの両方で利用可能になる、と説明している。これらの設計は、他のCBDCにも共通しており、意外感はない。

金融包摂の観点からは、銀行口座やデジタル機器にアクセスできない人でも、郵便局などの公的機関が提供するカードを使用してデジタルユーロで支払うこともできるようになる。またユーザーはATMでデジタルユーロを現金に交換し、またその逆もできるようになるという。

デジタルユーロの発行には、経済の効率性向上、民間デジタル通貨のマネロンリスク、プライバシー侵害リスクを軽減すること、ユーロの競争力を高めること、などの狙いがある。

日本銀行も2026年までに判断か

CBDCの発行に向け、ユーロ圏は現在、先進国の中で先頭を走っている状況だ。ECBがデジタルユーロの発行に向けて着実に進んでいることは、他の先進国でのCBDCに向けた動きも後押しする。

日本銀行は、3つの段階からなるCBDCの実証実験を行っており、2022年4月に第2段階の「概念実証フェーズ2」へと移行した。黒田前総裁は、CBDCを発行できるかについて「2026年までに判断する」と述べたことがある。これは、デジタルユーロ発行の正式決定を意識したスケジュール感であったと推察される。日本銀行も、CBDCの発行に向けて、着実に歩みを進めている。

(参考資料)
"Eurosystem proceeds to next phase of digital euro project", ECB,18 October 2023

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