ドル円レートが1ドル150円台入り
政府は為替介入で140円台回復を図るか
10月25日の海外市場で、ドル円レートは一時1ドル150円30銭台まで円安が進んだ。26日の東京市場でも150円台が維持されている。 10月3日にドル円レートは1ドル150円台を一時的に付けたが、その後は149円台でしばらく膠着を続けていた。1ドル150円は日本政府が防衛ラインと考える水準とみられ、為替介入警戒感が円安進行を抑えてきたのである。
ドル円レートは1ドル150円の節目を超えたが、その後は通常みられるように、一気に円安が進む形とはなっていない。やや意外な相場展開である。
ただし、円安がもう一段進むタイミングで、政府は円買いドル売りの為替介入に踏み切り、140円台の回復を目指すものとみられる。26日に発表される米国の7-9月期GDP統計で、実質GDPが年率5%台になるなど上振れれば、それをきっかけにさらに円安が進み、日本政府の為替介入を誘発する可能性もあるだろう。
ドル円は1ドル150円台に入り、年初来の円安水準を更新したが、円安の動きは鈍い。年初にドル円レートが127円台まで円高が進んだ後は、一貫して円安トレンドが続いているものの、その動きは緩やかである。
足もとの円安は、経済ファンダメンタルズに照らして行き過ぎているとみられるが、異例なドル高円安を主導してきた米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げの打ち止めが近い、との観測が強まっていることがドル円の頭を重くしている。
年初来の円安は最終局面にあると考えられる。米国の情勢次第ではさらにドル高円安が進む局面も残されているだろうが、1ドル150円台半ばが限界ではないか。政府は1ドル150円を第1防衛ライン、152円を第2防衛ライン、155円を第3防衛ラインに設定している可能性が考えられるが、第3防衛ラインが破られる可能性は小さいのではないか。
1ドル150円台乗せは日本銀行の政策にも影響
日本銀行は、為替市場でドル円レートの1ドル150円の水準を意識した金融調整を行ってきたと推察される。米国の長期金利上昇と10月30・31日の次回金融政策決定会合で、日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の再柔軟化に踏み切るとの観測が重なり、日本の10年金利も上昇傾向が続いている。国債買い入れ増額などを通じて日本銀行がこの長期金利上昇を抑え、YCCの現行の枠組み維持を優先すれば、それが日米長期金利差の拡大を通じて円安を後押ししてしまう。日本銀行の金融調整をきっかけに1ドル150円を超えて円安が進む場合、それが物価高を助長するとして日本銀行は政府や国民から批判される可能性がある。このことが、日本銀行に長期金利上昇を強く抑えることを躊躇わせてきた面があるのではないか。
しかし、米国側の要因、つまり米国の10年金利が再び5.0%に接近することを契機に、25日には1ドル150円を超えて円安が進んだことから、日本銀行としてはそのような批判を強く警戒する必要性が薄れているかもしれない。
さらに政府の為替介入で再び1ドル140円台となれば、円安を容認しつつ日本銀行がYCCの現行の枠組みを維持するために長期金利の上昇を抑え込むことができる余地が生まれる。
少なくとも当面のところは、YCCの再柔軟化ではなく、長期金利の上昇を強く抑えることを通じて現行のYCCを維持する道を日本銀行が選択する可能性が、幾分高まっているようにも見える。
次回金融政策決定会合で、日本銀行がYCCの再柔軟化に踏み切るかどうかは依然微妙な情勢ではある(コラム「日銀は次回会合でYCCの再柔軟化に踏み切るか」、2023年10月25日)。しかし、目先、日本銀行が長期金利の上昇を強く抑える姿勢を示す場合には、10月30・31日の次回金融政策決定会合で、YCCの再柔軟化に踏み切る確率はやや低下すると考えられる。
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