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日銀は先手を打ってYCC再柔軟化か

2023/10/31

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追いつめられる前に先手を打ってYCC再柔軟化を決めるか

日本経済新聞電子版は30日の深夜に、31日の金融政策決定会合で日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の+1.0%の事実上の上限を引き上げるなどの再柔軟化を議論する、との観測を報じた。7月の金融政策決定会合で日本銀行がYCC柔軟化を決定した際にも、その直前に、日本経済新聞は電子版で柔軟化を報じており、今回も同様のケースだ。31日に再柔軟化が決定される可能性は100%とは言えないものの、8割程度の確率で考えておく必要が出てきた。

7月のYCC運営柔軟化からわずか2か月程度で、日本銀行がYCCの再柔軟化に追い込まれるとすれば、それは予想外のことだ。7月には+1.0%の事実上の上限を「念のためのキャップ」と植田総裁は説明していた。この間、米国の長期金利が予想外に大幅に上昇したことが、日本銀行としても想定外となった主因だ。

足元でYCCが目標とする10年国債利回りは、+0.9%と事実上の上限である+1.0%にかなり接近している。これ以上利回りが上昇すれば、日本銀行は臨時国債買いオペや+1.0%に設定されている毎営業日指値オペを通じて、大量の国債を買い入れる必要が出てくる。それは日本銀行のバランスシートを拡大させ、財務のリスクを高める、国債市場の流動性を低下させるなど市場機能を低下させる、財政ファイナンスのリスクを高めるなど、多くの副作用を生む。

足元での10年国債利回りの上昇は、まだ+1.0%には達していないほか、31日の金融政策決定会合で日本銀行がYCCの再柔軟化を決めるとの観測で上昇している面があり、金融政策決定会合を過ぎれば、利回りは幾分低下することも期待できる。

しかし、7月のYCC柔軟化以降の10年国債利回りの上昇を主導してきた米国の長期国債利回りになお上昇余地があることから、追いつめられる前に先手を打つことを日本銀行が決める可能性が考えられる。

1ドル150円まで進んだ円安をけん制する狙いも

さらに、足もとの為替市場では1ドル150円まで円安が進み、円安進行による物価高が、政府が現在検討している物価高対策の効果を損ねてしまうリスクがある。そこで、日本銀行としても政府や国民のそうした懸念に配慮し、さらなる円安リスクを軽減する狙いで今回、YCCの再柔軟化を決める可能性が考えられる。実際に、YCCの再柔軟化を決め、10年国債利回りの上昇余地が広がれば、円安リスクは軽減される。その結果、1ドル150円近傍で円安はピークを打つ可能性も出てくるのではないか。

物価目標達成が前提となる本格的な政策修正とは異なる、との説明

具体的な再柔軟化措置として、日本経済新聞は、現在+1.0%を事実上の上限としている毎営業日指値オペを柔軟化することで、+1.0%を超える10年国債利回りの上昇を認める案が有力、としているが、実際のところそれが有力だろう。いずれは、変動幅の撤廃も視野に入ってくるのではないか。

他方で、景気情勢や株価などに強い逆風となり得る長期国債利回りの上昇につては、今後もけん制を続けるだろう。事実上の利回りの上限を引き上げても、円安リスクの軽減と長期国債利回りの安定の間で板挟みとなる、現に日本銀行の厳しい環境は変わらない。

今回、YCCの再柔軟化を決めれば、YCCの形骸化は一段と進む。しかし、日本銀行は、早期に10年国債利回り目標の引き上げやYCCの撤廃を実施する可能性は低い。それは、2%の物価目標達成を前提とするYCCの枠組み修正にあたるからだ。仮に今回YCCの再柔軟化を決めても、日本銀行は、それは「正常化」、「引き締め」などとは異なるとの説明を維持する可能性が高い。しかし、実質的にはそれは政策の修正であり、正常化の一環と理解できるだろう。

展望レポートでは2023年度、2024年度の物価見通しが引き上げられる可能性が高いが、それでも、予測期間最終の2025年度の物価見通しが2%を明らかに下回る水準が維持される限り、日本銀行は2%の物価目標をなお見通せないとして、マイナス金利解除など本格的な政策修正に年度内に踏み切ることはないだろう。

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