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米国の政府機関閉鎖を回避することは難しい情勢か

2023/11/13

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政府機関閉鎖でムーディーズが米国債を格下げし、金融市場を混乱させるか

共和党のマイク・ジョンソン米下院議長は11日に、つなぎ法案(予算継続決議:CR)を示した。現在のつなぎ法案は11月17日に失効してしまうため、歳出法案を可決あるいはつなぎ法案を可決しない限り、政府は18日から多くの予算執行の権限を失い、一部の政府機関は18日にも閉鎖される。政府機関閉鎖に陥れば、2018年12月〜2019年1月以来となる。

さらに、政府機関閉鎖となれば、大手格付機関ムーディーズが米国債の格付けを引き下げ、米国債は大手3社から最高位の格付けを失うことになる可能性が出てくる。この場合、株価下落、ドル下落にとどまらず、信用力の低下から米国債も売り込まれ、長期金利の上昇が米国経済に打撃となったり、株価の下落を増幅するなど、世界の金融市場に大きな悪影響を与える可能性も出てくるのではないか。

2011年、2023年8月にS&P、フィッチがそれぞれ米国債を格下げした際には、米国債は資金逃避先の安全資産としてむしろ買われたが、足もとの財政環境の悪化を映した米国債市場の悪い地合いを踏まえると、ムーディーズの米国債格下げは、米国債売りにつながる可能性もある(コラム「ムーディーズが米国債の格付け見通しを引き下げ:今度は格下げが長期金利上昇、トリプル安を引き起こすか」、2023年11月13日)。

期限までに下院、上院で法案を可決し大統領の署名を得るのは難しいか

ジョンソン米下院議長が示したつなぎ法案は、軍や運輸、農業など一部政府業務が来年1月19日まで、それ以外は2月2日までの歳出をまかなう2段階方式となっている。同案は、バイデン政権が望むイスラエルやウクライナへの支援といった追加予算は盛り込まれていない。他方、共和党保守派が望む政府支出の削減や、より厳しい反移民政策を米南部国境で講じる内容なども含まれていない。

同法案は、共和党が過半数を占める下院でまず可決した後に、民主党が過半数を占める上院で可決し、バイデン大統領が署名をする必要がある。そのため、共和党、民主党ともに受け入れられ、また共和党内では保守派も中道派も受け入れられるものである必要がある。しかし、それは針に糸を通すようなものであり、相当難度が高い。

政府機関閉鎖の回避は時間切れか

共和党内の保守派の間では、既にジョンソン米下院議長が示したつなぎ法案に反対する意見が出されている。下院共和党の保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」のメンバーで、歳出削減を含めるよう求めていたチップ・ロイ議員は「100%反対だ」とソーシャルメディアに投稿している。下院では共和党が過半数を占めるが、民主党に対して9議席差という僅差である。他方、下院の保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」は30~40人規模と考えられ、その一部が民主党とともに反対に回れば、法案は下院で可決されない。

また、ホワイトハウスのジャンピエール大統領報道官は「下院共和党は両党の議員から非難されている不真面目な提案で貴重な時間を無駄にしている」と述べており、民主党からも反対意見が出ている。

ジョンソン下院議長が示している2段階のつなぎ予算案が可決されなかった場合には、共和党の下院議員らは通年の継続決議案と呼ぶ内容に舵を切る予定だという。同決議案は政府支出を基本的に横ばいに維持するものとなる。

17日に失効する現在のつなぎ法案は、共和党と民主党、そして共和党内が大きく分裂する中で、マッカーシー前下院議長がいわば職を賭して辛うじて成立させたものである。ジョンソン米下院議長が同じ形でつなぎ法案を可決できるとは限らない。

期限まで既に一週間を切ってしまったことを踏まえると、米国が政府機関閉鎖に陥る可能性は高まっているように思われる。

(参考資料)
「ジョンソン米下院議長がつなぎ予算案、政府機関閉鎖の回避で」、2023年11月13日、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース
「米下院議長が暫定予算案、与野党から反対の声 政府閉鎖期限迫る」、2023年11月12日、ロイター通信ニュース
「米下院議長がつなぎ予算案 14日にも下院採決、反対論も」、2023年11月13日、日本経済新聞電子版

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