7-9月期は一時的なマイナス成長へ:2024年の日本経済は「内憂外患」の様相が強まる
7-9月期のマイナス成長は一時的
内閣府が11月15日に発表した2023年7-9月期GDP統計(一次速報値)で、実質GDPは前期比年率-2.1%となった。マイナス成長となるのは、2022年7-9月期以来1年ぶりのことだ。 ただしこのマイナス成長は、前期の実質GDP成長率が前期比年率+4.5%と大きく上振れたことの反動という側面が強い。前期に大幅に減少して成長率を押し上げた輸入が増加に転じたことが、同期の成長率が大きく下振れた主因である。
このように、マイナス成長は一時的現象であるが、同期の成長率は事前予想の前期比年率-0.4%程度を大きく下回り、予想以上に弱い結果であった。実質個人消費が前期比-0.0%、実質設備投資が同-0.6%と、内需の柱がともに2四半期連続でマイナスとなっており、景気の基調には弱さも目立っている。
2023年の日本経済は想定以上に良好だったが
2023年の日本経済は、通年で見れば年初に想定された以上に良好となることが予想される。2023年(暦年)の実質GDP成長率は+1.7%と2022年の+0.9%の2倍近くになると見込む。その最大の要因は、新型コロナウイルス問題が克服されていく中、経済活動の正常化が進んだことだ。特に、インバウンド需要の回復は、2023年の日本の実質GDP成長率を+1.1%程度押し上げた計算となる。
ただし、予想外の堅調は概ね年前半で終わり、年後半には息切れ感も出てきた。インバウンド需要の回復は一巡しつつあり、2024年の成長率への寄与はかなり小さくなるとことが予想される。
インバウンド需要の成長寄与がなくなるだけでも、2024年の成長率は前年比で1.1%程度下振れる。さらに2024年には、海外要因、国内要因の双方から日本経済への逆風が強まることが予想される。その結果、2024年の成長率は+0.6%と、2023年と比べて3分の1程度とかなり減速することが予想される。
2024年の日本経済は「内憂外患」の様相が強まる
景気の逆風となる海外要因としては、海外景気の減速、輸出鈍化が挙げられる。日本の最大の輸出先である中国の経済低迷は、2023年に明らかとなったが、それは2024年も続く可能性が高い。2023年10月に中国政府は1兆元の国債の追加発行を決め、景気対策に乗り出した。しかしその規模はGDPの0.8%程度と限定的な規模に留まる。そうした中、不動産不況の継続やそれに関わる不動産開発会社の社債のデフォルト、不動産関連に投資する理財商品、信託商品のデフォルトなどから、金融が混乱すれば、経済の失速につながりかねない。
他方、日本の第2の輸出先である米国経済については、2023年7-9月期の実質GDPが前期比年率年率+4.9%と上振れた。しかし、10-12月期の実質GDP成長率年率+2%程度と巡航速度に戻る見通しだ。また、雇用統計や住宅関連指標には弱さも見られており、2022年以来の大幅な利上げや長期金利の上昇の影響から、来年の成長率は大きく下振れる可能性も考えられるところだ。中国に続いて米国経済の減速も明らかとなれば、日本の輸出環境がにわかに厳しさを増す。
国内要因では、物価高が個人消費にもたらす悪影響が、引き続き強い経済の逆風である。2023年9月の実質賃金上昇率(名目賃金上昇率-物価上昇率)は前年同月比-2.4%と18か月連続のマイナスとなった。7-9月期の実質雇用者報酬は、前年同期比-2.0%と大幅マイナスが続いている。物価上昇率に賃金上昇率が追い付かず、国民生活は圧迫され続けているのである。
2024年の日本経済は「内憂外患」の様相が強まることになるだろう。
経済対策の効果は限定的
政府は2023年11月2日に総合経済対策を正式に決定した。そのなかで最も注目されたのが、所得減税と給付金である。4万円の所得減税と扶養家族への4万円の給付金の総額は3.6兆円程度と考えられ、それは実質GDPを1年間で+0.12%押し上げると試算される。
さらに低所得世帯への給付金を含む所得減税・給付金は、総額5兆円規模に達するにも関わらず、実質GDP押し上げ効果は+0.19%と限定的であり、費用対効果は概して小さいと感じる。恒久減税ではない時限措置の減税や、一時的な給付金は貯蓄に回る割合が高くなることが、経済効果が限定される理由である。
このように、政府の経済対策に大きな効果が期待できない中、来年も物価高、実質賃金の低下が個人消費の逆風となり、さらに海外景気の減速による輸出環境の悪化も、国内景気の逆風となり得るなど、来年の日本経済は「内患外憂」に晒されることになろう。
2024年は日銀政策修正と円高リスクにも注意
2024年には、日本銀行が本格的な政策修正に着手する可能性があり、これが金利上昇や円高を通じて、日本経済に逆風となるリスクもある。
日本銀行は、現在の異例の金融緩和には副作用が大きいことから、2%の物価目標達成いかんにかかわらず、それを修正、正常化したいと強く考えているのではないかと推察される。そこで、来年の春闘での賃上げ率は、期待されるほどの水準には達せず、2%の物価目標達成との宣言を出すことはできないとしても、金融緩和の長期化に伴う副作用を軽減することが目的であると説明して、マイナス金利政策解除などの事実上の政策修正と言える副作用軽減策を、金融市場の混乱を回避しつつ緩やかに進めるのではないかと予想する。その時期は、来年4月ではなく、来年後半以降にずれ込むと見ておきたい。
2023年の為替市場は、年初は円安ドル高トレンドで始まったが、日本銀行が政策修正に慎重である中、米国経済が予想外に堅調であり、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが続く中、米国長期利回り上昇が主導する形で、円安が進行した。ただし、2024年は米国経済の減速、FRBの本格的な金融緩和実施に日本銀行の金融政策修正期待が重なる中、為替市場は円高ドル安の流れとなることが見込まれる。ドル円レートは中期的な均衡水準である1ドル110-115円を数年かけて実現するだろう。2024年末には1ドル130円台を見込んでおきたい。
円高が急速に進めば、日本経済や株式市場などに強い逆風となるが、日本銀行が政策修正のスピードを調整することで、急速な円高を回避するだろう。また、日本銀行が政策修正を実施しても、短期金利の上昇は当面+0.1%~+0.2%に留まり、10年国債利回りの中期的な落ち着きどころは+0.8%~+1.0%程度と予想される。そのため、日本銀行の政策修正が、日本経済や金融市場に深刻な打撃を与えることにはならない、と見ておきたい。
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